【読書考】「トッド人類史入門」を読んで

おはようございます。コロちゃんの日常は、朝のワンコとの散歩の後は、このブログをポチポチするか読書するかで、ほとんど一日を終えています。

その読書ですが、最近はなかなか、皆さんにご紹介するような興味深い本が見つからないので、【読書考】も前回のご紹介から日にちが開いてしまいました。

今日は、久しぶりに面白くて一気読みした本をポチポチします。

1.エマニュエル・トッド氏を知っていますか?

皆さん、フランスの歴史人口学者の「エマニュエル・トッド氏」をご存じですか。

世界の国や地域ごとの家族システムや人口動態を、歴史的に遡って着目し、それを現在の政治・経済・文化に繋げての考察を、説得力のある理論として提示している方なんです。

聞くところによると、母国のフランスよりも日本での知名度の方が高く、著書の出版も日本の方が盛んだそうです。

コロちゃんも、「エマニュエル・トッド氏」の本は、だいぶ目は通しています。

しかし、著者の「新書」は読めても、「ハードカバー」の本は、本格的な学術書のようで、ちょっと読みこなすには敷居が高いと思っていました。

今日、ご紹介する本は、「トッド人類史入門」と名打った通り、コロちゃんが望んでいた入門書そのものでした。

コロちゃんは、いつも「エマニュエル・トッド氏」の他の著作を読んだ時に、「難しいなー!」と思っていましたので、本書を見つけて、「これはいいや!」と、直ぐに思って手に取りました。

2.「トッド人類史入門」(エマニュエル・トッド 文芸春秋 2023年)

本書は、三部構成と+2章で構成されています。

その第1部は、「エマニュエル・トッド氏」へのインタビューで、その考察をやさしくわかるように引き出したもの。

第2部は、「片山杜秀氏」(思想史研究者)と「佐藤優氏」(作家・元外務省主任分析官)と「エマニュエル・トッド氏」との対談です。

第3部は、「片山杜秀氏」(思想史研究者)と「佐藤優氏」(作家・元外務省主任分析官)のお二人が、「エマニュエル・トッド」の思想を語っています。

その後に、インタビュー2本の構成です。「エマニュエル・トッド」の全てをやさしく紹介していますね。

3.エマニュエル・トッド インタビュー

著者は、先行した多くの著作で「家族」という視点から、全人類史を描いています。その「家族」に着目した理由を、以下のように語っています。

「『家族の在り方』は、地域や時代によって大きく異なっているのです」

そのことに気が付いた時のエピソードが書いてありました。

冷戦期の頃(1990年以前)に、自宅の居間のソファーで寝転がっていた時に、ソ連・中国・ベトナム・ユーゴスラビア・アルバニアなどの「共産圏」の地図が、「外婚制共同体家族の分布図」と一致することに、突然気が付いたというのです。

「外婚制共同体家族」とは、下記に出てきますが、「いとこ婚を認めない共同体家族」のことです。その特徴は、親子間は権威主義的で、兄弟は平等です。

日本は、親子間は権威主義的ですが、兄弟は嫡子相続ですから、その点が違い、「直系家族」となります。その違いは後から出てきます。

一見全く関係がないような、イデオロギー国家の成り立ちと、家族関係の在り方について、この世界地図の気づきから「エマニュエル・トッド」は、考察を深めていったのですね。

①「家族の在り方」が「政治体制」を決めた

著者は、共産主義国家は、ユーラシア大陸中央部の「外婚制共同体家族」の地域でしか成立していないと主張しているのです。

著者は、家族類型を6つに分けています。

①「絶対核家族」    英米
②「平等主義核家族」  フランス北部、スペイン、イタリア南部
③「直系家族」     日本、ドイツ
④「共同体家族」    (男子が全員結婚後も同居)
⑤「外婚制共同体家族」 中国、ロシア(いとこ婚を認めない)
⑥「内婚制共同体家族」 トルコ、イラン(いとこ婚を奨励)

この分類の⑤「外婚制共同体家族」は、親子間は権威主義的で、兄弟間は平等な習俗です。

それが権威主義的で平等主義的な共産主義イデオロギーと親和性を持っていたから、その地域で共産主義国家が成立したのだと、著者は主張しているのです。

なお、日本は③「直系家族」です。これは、男子長子が結婚後も親と同居し、全てを相続。親子関係は権威主義的で兄弟間は不平等です。

この家族の在り方の違いが、歴史上で政治体制を決める大きな要因になっていると、著者は主張しているのです。

②「家族の在り方」は、中心から進化し、周辺へと進んでいった

ユーラシア大陸の先進的な地域は二つありました。メソポタミアと中国です。

その地では、他の地域に先駆けて「外婚制・内婚制共同体家族」(親子関係は権威主義的・兄弟は平等)へと、家族関係が進化したのだと考察しているのです。

革新が進んだユーラシア大陸の中心部に対し、ヨーロッパやアメリカなどの、中心部から遠い辺境地域ほど古い家族形態が残ったというのです。

このような進化は、中心部から始まり、時間の経過を経て、周辺部へ進んでいきます。

ホモサピエンスが、狩猟採集民として暮らしていた頃は、かなり男女平等でしたが、それが時代が進むにつれて、ユーラシア大陸の中心部から「女性の地位が低下し続ける」方向へ進んできたと言うのです。

文明の中心地で生じた女性の地位の低下は、当時の先進的な革新だったのだというのです。

本書では、西欧人が「最も進んでいる」と思い込んでいる西欧の科学技術的・経済的近代は、むしろ太古的な家族システムに符号しているというのです。

すなわち、西欧は、遅れた周辺の地域であったゆえに、ユーラシア中心部で発明された文字・国家・都市・技術を効果的に取り入れることができたと見ているのです。

西欧が、唯一取り入れなかったのは「女性の地位の低下」のみで、これが近代において彼らが優位に立った背景だと言っているのです。

最初にこのエマニュエル・トッドの考察を読んだ時、コロちゃんはビックリしました。

「自由と民主主義」や「人権」「個人の尊厳」などの、自由主義的思想は、人類史において進んだ文明の結果生まれたものではないというのですから。

むしろ、家族共同体の成立の歴史をみると、西欧が周辺地域の辺境であったゆえに、太古の一番古い形が残っていたから、「自由と民主主義」が成立したとの主張なのです。

もちろん、その古い家族システムが偶然、産業革命と親和性があったから、西欧での急発展があったことは否定できませんが。

コロちゃんは、女性解放運動の先駆者として知られる作家、平塚らいてうの「元始女性は太陽であった」という言葉が、頭に浮かびました。

中東などのユーラシア大陸の国家では、女性の地位が低い国が多いのですが、これは文明が「遅れている」からではなく、「進んでいたから」だったとは、驚きです。

③「直系家族」の特徴

上記で見たように、日本は③「直系家族」です。

これは、男子の長子が結婚後も親と同居し、全てを相続し、親子関係は権威主義的で兄弟間は不平等です。

その特徴は「知識や技術や資本の蓄積」を容易にし、「加速の原則」という強みを持っていますが、過剰に完璧になると硬直化するという弱みがあります。

「キャッチアップ」は得意でも「創造的破壊」は不得手で、「老人支配」を招きやすいというのです。

これに対し、原初のホモサピエンスに近い家族形態なのが、アングロサクソンの「絶対核家族社会」です。

成人すると、親元から独立する英米社会は、世代間断絶が起こりやすい。つまり「継承」が得意な「直系家族」に対して、「革新」を得意とします。

まさに今の日本の特徴が、そのまま指摘されていますね。ただ、この特徴が「直系家族」という家族システムに原因があったとするならば、その改革はどうしたらいいのか考えてしまいますね。

④中国の「共同体家族」と日本の「直系家族」

「直系家族」は、父系制への発展の第一段階に相当します。長男を特別視して家督を譲っていく縦型のシステムです。

全世代の獲得物を次世代に効率よく継承できるのが、このシステムの強みです。社会において老人が権力を持ち始めたのも、資本の蓄積が可能になったからです。

東アジアの文明の中心は、文字・都市・国家・技術を生み出した中国北部です。直系家族を発明したのもこの地域で、「儒教」はまさに直系家族のイデオロギーを言語化したものだというのです。

日本は、こうした文化を中国から取り入れてきていたことから、西洋文明の受容に有利に働きました。

中国の家族システムは、その後さらに「外婚制共同体家族」に進化していきました。日本は、中国のように中心ではなく、辺境だったので古い「直系家族」のままだったと言います。

その「直系家族」のままであった日本は、結果として西洋文明の受容により適していたと言えるそうです。

この発展段階説には、コロちゃんも驚きました。中国的社会システムは遅れていて、西欧が進んでいるとの一般の見方を、まったくひっくり返す考え方なのです。

「脱亜論」を書いた福沢諭吉に聞かせたい内容だと思いました。

4.エマニュエル・トッド+片山杜秀+佐藤優

ここでは、3人が「ウクライナ戦争と西洋の没落」について対談をしています。

この章の内容は、誤解されやすい内容化と思いますが、今回のウクライナ戦争について、ロシアの立場を3人で考察しているのです。

まず、ロシアのプーチン大統領が何を考えているのかを、2022年10月にロシアで開催されたヴァイダル会議の演説から考察しています。

ヴァイダル会議とは、国際的な知的プラットフォームとして毎年ロシアで行なわれている国際会議です。

下記の引用をご覧ください。

「ウィキペディア ヴァイダル・クラブ」より

ヴァルダイ国際討論クラブは、専門家の分析センターで、2004年ロシアの大ノヴゴロドで設立された。同クラブの名称は最初の会議が行われた場所を讃える形で名付けられており、最初の会議がヴァイダル湖の近くで開催されたことにちなむ」

「ヴァルダイ・クラブの主な目的は、国際的な知的プラットフォームとして、専門家、政治家、公人やジャーナリストなどの間で開かれた意見交換を促進することであり、国際関係、政治、経済、安全保障、エネルギーあるいは他の分野における現在の地球規模の問題について先入観のない議論を行うことで、21世紀の世界秩序における主要な趨勢や推移を予測している」

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%B4%E3%82%A1%E3%83%AB%E3%83%80%E3%82%A4%E3%83%BB%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%83%96
参照:ウィキペディア (Wikipedia): フリー百科事典:「ヴァイダル・クラブ」最終更新 2023年3月3日 (金) 23:54

上記で引用した2022年10月に開催された「ヴァイダル会議」に、ロシアのプーチン大統領が1時間の演説を行ない、その後3時間にわたる討論に参加しているそうです。

本書によると、プーチン大統領は、この会議で次のように述べているそうです。

「今起きていることは、例えばウクライナを含めて、ロシアの特別軍事作戦が始まってからの変化ではありません。これらの変化はすべて、何年も長い間、続いています・・・これは世界秩序の地殻変動なのです」

これを佐藤優氏は紹介し、「ウクライナの軍事衝突自体は、表面的な現象にすぎず、今起きていることの根源は、もっと深いところにあるとプーチンはみている」と語ります。

要するに、「伝統的家族観に反する悪魔崇拝を行なっている西側を相手に、正しいキリスト教(正教)的価値観を保持するロシアが戦っている」と主張していると、佐藤氏は語ります。

つまり、西洋が自分の世界の中で自分のルールを適用するのは構わないが、それを世界全体に強制することで現在の混乱が起きていると述べているというのです。

この論議を、エマニュエル・トッド氏は、「国際関係」と「家族関係」のアナロジーとして語っています。

そして、「ウクライナ戦争での戦争は、通常の政治学や経済学では的確にとらえられない」として、政治や経済の「意識」のレベルだけでなく、教育という「下意識」、さらには宗教や家族といった「無意識」まで、降りていく必要があると述べています。

この議論は深く、かつ観念的な議論なので、コロちゃんがわかり易くまとめることはできません。

ご興味のある方は、ぜひ本書をお読みください。

5.片山杜秀+佐藤優

ここでは、「片山杜秀氏」(思想史研究者)と「佐藤優氏」(作家・元外務省主任分析官)のお二人が、上記の本「我々はどこから来て、今どこへ行くのか?」をめぐって議論しています。

コロちゃんは、この本をまだ読んでいません。なんか難しすぎるように感じて入り口で躊躇していたんですよね。

この本の重要なテーマとして、メリトクラシー(能力主義)があると佐藤優氏は言います。

片山杜秀氏は「教育(能力主義)」は本来、人々の間に「平等」をもたらすものであるはずなのに・・・今日では「教育(能力主義)」が「不平等」をつくりだすような状態となっていると語ります。

以前の「階級社会」よりも「格差」はさらに広がっていると喝破するのです。

そして、片山氏は、そうした競争はますます激化して、トッドさんは「もはや学歴の高さと知性の高さはもはや無関係だ」としていると語ります。

片山氏は、左翼の高学歴のエリート層が社会の大多数の労働者や大衆から遊離したことが、社会の分断と荒廃を招いたというのがトッドさんの問題意識だと、賛同しています。

それに対し、佐藤優氏は、「難関校の中学受験では・・・受験競争が低年齢化しています。しかし、それほど熾烈な試験を12歳で突破しても、大した大人になるとは限りません。『2月の勝者』が幸福になれるとは限らない」

このように、2人で対談しながらため息をついているかのように感じました。

また、興味深い内容もありました。佐藤優氏は、日本の「直系家族(長子相続制)」が、定着したのは、およそ鎌倉時代以降だと言います。

「完成したと言えるのは、19世紀末、明治維新後の決定でそれが国の民法典に明記され、皇室に適用れることになった時のことであった」(「我々はどこから来て、今どこへ行くのか?」 より)

そして、英米の「核家族」が得意とする「創造的破壊」について、このように述べています。

「直系家族は創造的破壊を得意としない。何しろ、この家族システムの目標は無限の完璧化なのだ」

これを片山氏は、以下のようにまとめています。

「平たく言うと、英米の『核家族(子どもが親元から離れる)社会』は、『世代交代』や『創造的破壊』を得意とするのに対し、日独の『直系家族(長子が親と同居する)社会』は、『(知識や技術の)世代継承』や『キャッチアップ』を得意とし、ただしどこかで硬直化してしまうということです」。

本書では、確かにこう言われると「外圧なしにはなかなか自己変革できない日本」の核心をついている気がしますと語っています。

6.論点は興味が尽きない

上記で紹介した以外にも、「日本で政権交代がなかなか起きないのは、直系家族社会だからだ」とか、「韓国をどう見るか」とか、「民族とは何か」とか、数多い論点が展開されています。

エマニュエル・トッド氏の著書の内の学術書のような本は、読めなくとも、本書のような新書ならば簡単に読めます。

本書は、そのエッセンスを「片山杜秀氏」(思想史研究者)と「佐藤優氏」(作家・元外務省主任分析官)のお二人が、丁寧に対談しながら取り上げてくれるのです。

本書は、読みやすく多くの知識が身に着けられます。興味深いですよ。ぜひ読むことをおすすめします。

コロちゃんは、社会・経済・読書が好きなおじいさんです。

このブログはコロちゃんの完全な私見です。内容に間違いがあったらゴメンなさい。コロちゃんは豆腐メンタルですので、読んでお気に障りましたらご容赦お願いします(^_^.)

おしまい。

Jill WellingtonによるPixabayからの画像
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