【読書考】「宇沢弘文 新たなる資本主義の道を求めて」(佐々木実 著 講談社現代新書)を読んで

読書

本書は、経済学者「宇沢弘文」の伝記です。コロちゃんは、著者の名をそれまで知りませんでした。

副題の「新たな資本主義の道を求めて」が目に留まり読んでみました。読むと、この主人公は「悲劇の経済学者」ではないかと思いました。

1.数学の天才、「貧乏物語」に感銘し経済学へ転向

昭和3年生まれですから、コロちゃんの父親の年代の人ですね。その生育と貧しい青年の、気骨ある反骨精神あふれる学生時代と青年期は読んで楽しいものでした。

しかし時代は、戦前から戦中の軍国主義の時代ですから、自由主義的傾向を持った宇沢弘文には居心地が悪かったでしょう。

戦後は、東大数学科の期待の星と言われながら、川上肇の「貧乏物語」に感銘を受け、経済学者への転身を決意します。

東大数学科を退学するときには、宇沢はすでに20代半ばになっていたといいます。

2.アメリカから招待状が届く

ところが東京大学退学後、統計数理研究所に勤めていた宇沢弘文は、東京大学経済学部の近代経済学者グループの研究会で、アメリカ経済学の最新論文と出会います。

経済学なのに高度な数学が使われていたのです。その日から、宇沢は新進気鋭の経済学者ケネス・アローの論文をむさぼり読みます。

アローに傾倒した宇沢は、自分の書いた論文をアローに送ります。するとすぐに「一緒に研究しないか」との招待状が来たのです。

アメリカのスタンフォード大学の新進気鋭の数理経済学者、ケネス・アローに見出されるとは何と言う奇跡の出会いでしょうか。

3.行動科学の申し子

当時のアメリカでは、経済学の新しい流れが起きていました。

アローをリーダーとするスタンフォード大の若手研究者グループは、経済学にとどまらず、社会科学全般に数学を導入しようという壮大なプロジェクトに挑んでいました。

行動科学とは、数学や統計学の方法を大胆に取り入れた社会科学です。

経済分析の手法に、数学の手法を取り入れることにより、それまでと違った資本主義のピジョンを描くことができるようになったとされています

東大数学科で抜きんでた才能を開花させながら、経済学に転身した宇沢はアメリカ経済学会が喉から手が出るほど欲しい逸材だったのです。

なるほど、それで「数学の天才」宇沢弘文が注目を集めたわけかと納得しました。このように宇沢弘文が、数学の才能を持って、マルクス経済学から近代経済学に転身するとは驚きの展開です。

宇沢弘文の出世物語が、経済史の進化を逐一追いかけることになり、経済史を含めた諸事情の知識が読んで身に付く事は心地よいと感じました。

4.ベトナム戦争とアメリカ経済学

本書で読む宇沢弘文は、経済学者ですが、その視線に常に弱者への視線を感じる気がしました。その下から上を仰ぎ見る視線で彼独自の経済学の理論を構築していったように思えます。

そして、この時期にアメリカの政治情勢が大きく変化しました。

当時、ベトナム戦争がはじまり拡大していった時期です。経済学者も否応なくそれに巻き込まれてというか、むしろ進んで協調していったといった方がよいのでしょう。

5.戦争に貢献した行動科学

アメリカの若い経済学者が国防省に入って、戦争の効率化という作業を追求しはじめたのです。その手法は「行動経済学」そのものでした。

32歳で国防次官補になったある新古典派の経済学者は、「キル・レシオ」という概念を開発したといわれています。

それは、ベトコン一人殺すのにいくらかかるかを計算して、国防費をできるだけ最小に抑えることを目指したといわれています。

アメリカ1960年代の「政治の季節」の始まりです。自由主義者の宇沢弘文の居心地が、だんだんと悪くなっていったのです。

6.帰国、そして・・・

宇沢弘文は、その最中の1968年に日本に帰国するのですが、アメリカで居場所を失ったのかもしれないと思いました。

彼にとって、当時の政治に寄り添うかのような経済学者たちの傾向は不本意だったと思います。

しかし、1968年の日本は東大全共闘の時代です。

その後の宇沢弘文の学者としては、「社会的共通資本」の概念を提唱し、「自然環境・社会的インフラ・教育医療などの制度」を研究、主張したとあります。

しかし、これは30年以上時代が早かったのではないかと思います。

今から振り返えると「環境問題」の提起が、世の中に広く受け入れられ始めたのは2000年代以降でしょう。1960年代の日本での苦難は目に見えるようです。

現在でも「リベラル」と言われるような研究は、当時の日本でどう受け止められたのかは、本書には記載はありませんが、容易に想像がつきます。

当然、学問の世界のメインストリームにはなりえなかったでしょう。

7.悲劇の経済学者だったけど

一方、経済学の世界においても、今から振り返ってみれば1980年代からは「新自由主義」が盛んになります。規制を緩和して生産力を伸ばそうという流れです。

それが行き過ぎて反転する2010年代の流れを見ると、宇沢弘文は40年ほど先駆的だった経済学者だったと、コロちゃんは感じました。

本書は、結局はヒーローにはなれなかった宇沢弘文の伝記ですが、良き経済学者とは弱者にやさしい視線が不可欠と痛感しました。

経済学の目的は、やはり人々の幸せな生活のためにあるという原点を思い起こさせる本だと思いました。本書を、ぜひ読むことをおすすめします。興味深いですよ。

コロちゃんは、社会・経済・読書が好きなおじいさんです。

このブログはコロちゃんの完全な私見です。内容に間違いがあったらゴメンなさい。コロちゃんは豆腐メンタルですので、読んでお気に触りましたらご容赦お願いします(^_^.)

おしまい。




PVアクセスランキング にほんブログ村

コメント

タイトルとURLをコピーしました