【読書考】「貨幣進化論」(岩村充 著 新潮選書)を読んで

読書
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 本書は、「貨幣と通貨システム」についての本ですが、とても読みやすくわかりやすいと思いました。貨幣が産まれる前の時代から始まり、順次歴史を現代まで追いかけています。

最初はやさしく、近代に近づくに従ってだんだん専門的になってくるのですが、エピソードが多いし、わからないところはハッキリとわかりませんと書いてあるので、論旨が明確です。

1.「パンの実」から「宝貝の貨幣」の誕生

「貨幣」について「パンの木の島の物語」という架空の世界で表現した内容には驚きましたが、なるほどこのように読むとその「原理」がわかります。

ある島で「腐ってしまうパンの実を蓄える方法」として「助け合い」という「貯蓄」が始まり、やがて「貨幣」「資本市場」「利子」が産まれたと物語に託して語っているのです。

「パンの実」から「宝貝」という貨幣の誕生です。

そして「シニョレッジ」(貨幣発行益)のお話。この言葉の語源は中世ヨーロッパの領主を意味する「シニョール」だったなども初めて知りました。

その後は貨幣が「宝貝」から「粘土板」へと進化します。

そして「政府」「バンク」「国債」と話は続くのですが、物語を読む中で経済の基本原理がわかるという内容になっていて、面白く読めました。

2.金本位制への旅

中世ヨーロッパでは利子をとることは罪悪でした。根拠は聖書にあります。それが、時代が進むにつれて許容する論理が生まれてきます。その考察が詳細に書かれています。

そのカトリック協会も中世の終わり頃になると徐々に教義を転換し、利子を公に認めるようになります。この転換の時期は、経済が成長し始めた時と一致しています。

金利が認められたから経済が成長したのか、経済が成長したから利子が認められたのか、どちらなのでしょうか。

いずれにしろ、経済が成長の時代に移るころには利子は罪悪から常識に変わったと記載されています。

そして金貨と銀貨の時代になります。

貨幣価値の大半は素材金属の価値で占められることになります。もちろん、金属が貨幣として使えるところから生じる「おまけ」としての割り増し分がついています。

経済学者はこれを「流動性プレミアム」がついているといいます。これこそが貨幣の発行者にとっての「シニョレッジ」の源泉なのです。

16世紀のヨーロッパでは、アメリカ大陸からの銀の大量流入によって銀価格が下落しました。銀価格の下落は貨幣価値の下落、すなわち物価の上昇となります。

これが中世ヨーロッパを、近世と呼ばれる絶対王政に変化させる転機となった「価格革命」とよばれている大事件です。

中央銀行が登場する以前の物価と金利は、ともに貨幣材料となる金属と他の商品との需給バランスによって支配されていたのです。

その時代はやがて終わり、金貨や銀貨ではなく、金貨に結び付いた銀行券という紙の貨幣をつかう金本位制という仕組みと、そのもとで銀行券を独占的に発行する中央銀行という組織が登場します。

3.イングランド銀行から中央銀行へ

「金貨」から「銀行」「中央銀行」と流れる歴史の旅の始まりです。

「イングランド銀行の生い立ち」や「スレッドニードル通りの老婦人」など解説とエピソードが満載。一気に内容が濃くなってきます。かなり詳しいですよ。

「そして中央銀行へ」では、1884年に「ピール銀行条例」でイングランド銀行が中央銀行となります。

それまでは金貨の引換券に過ぎなかった銀行券が、金貨や銀貨に代わる貨幣となった理由と経緯が明らかにされています。

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4.金融政策が始まる

金本位制とは、金と貨幣価値を結び付ける制度です。当時は金貨と銀貨と銅貨が通用していましたので、金の価値を決めるのが難しかったとされています。

それは、金や銀は貴金属としての価値もありますので、金貨と銀貨の価値が固定されていれば、貴金属としての需給を見て、交換したり溶かして売ったりすれば利益を得ることができるからです。

通貨間の価値を固定してしまう固定相場性の長期維持は困難だということですが、世界がそれを理解するのは20世紀も終わり近くになってからのことです。

そこで英国政府は1817年に「ソブリン金貨」を作って、金貨のデザイン・重量・品位を固定してしまいます。この通貨が19世紀の金本位制のにおける世界標準になりました。

しかし、景気が良くなれば新しい需要が生まれます。海外からの輸入が増えます。金本位制の国では、その決済代金は金貨で支払われるので、海外へ金が流出するのです。

中央銀行は不安になります。景気が良くなるのはありがたいことですが、それとともに金準備が減るのは困る。金準備を守る方法はないのでしょうか。

あります。金利を引き上げることです。

金融政策がこうして始まりました。金本位制下での中央銀行としてイングランド銀行が業務を始めた時、金融政策という仕組みも動き出したと本書は記載しています。

5.戦争の時代に

20世紀は戦争の時代でした。大きな戦争以外にも小さな戦争は何度も起こっています。

本書は、この戦争の戦中と戦後の金利の動きを予想して、金融政策がどのように動くかを論理的に展開しています。

その過程は、本書で読んでいただくとして、結論は「大きな危機に際しては、金兌換を停止し危機が去ったら旧に服すというのは、金本位制の教科書的なテクニックになりました」と記載しています。

なるほど、日本での1930年の金本位制の復帰の理由はこの理屈によるものなのかとうなずきました。

当時の日本は、この金本位制への復帰で、金の流出が生じ経済が大きく落ち込み、それだけの理由ではないのでしょうが、日本が満州へと進出する背景となったと記憶しています。

金本位制とは、そこまでして守るべきものだったのかと疑問を持ちましたが、本書では「2世紀近い時間をかけて形成されてきた金本位制という制度の重み」を指摘しています。

そしてドイツやフランス、英国と日本の経済と金本位制の動きを追いかけますが、1930年代の世界の不安定化は目を覆うばかりとまし感じました。

ただ、私たちの学んだ歴史では「ブロック経済」についてはその後に戦争を招いた悪しき政策のように教えられていたかと思います。

しかし、本書で読むその評価は違います。

「自由貿易の世界では財政による景気刺激を行っても効果の一部は他国に流出して・・・ブロック経済はそれを回避させる効果はあったのです」

「実際、ブロック経済と財政出動のセットを選択した国々は、ほぼその順番に景気を回復させることに成功しています」

この評価には驚きました。いろいろな見方があるものですね。

6.私たちの時代

第二次世界大戦の帰趨が見えてきた1944年に開かれた「ブレトンウッズ会議」で、戦後の国際通貨体制が決まりました。その内容とそれ以降の動きを、本書では展開しています。

その時から26年後の1971年に、アメリカのニクソン大統領がドルと金の交換を停止するという演説するまでは、この「ブレトンウッズ体制」が続きます。

この項では、その「ブレトンウッズ体制」の仕組みと、その後の経過を考察しています。

その中で、第二次世界大戦後の日本の復興について、「日本は奇跡だったか」との見出しで次のように書いていることは目を引きました。

「日本の戦後の高度成長がなぜ起こったのか。それが奇跡と呼ぶようなものなのか」という問いに対しては、以下のように記載されています。

「戦争による日本の産業基盤の破壊は『焼野原』といわれる写真が物語るほど決定的なものではなかった」

「空襲などに対して優先的に疎開保護されていた資本財生産設備はあまり被害を受けていない」

実に興味深い指摘です。

この本全体を通じて感じることは、単に歴史を紹介するだけではなく、ハッキリとした論評をところどころでしていることです。

戦後の「復興金融公庫という・・・ケインジアン的経済政策の典型」を「ドッジ・ラインが・・・マッカーサーの威力で・・・均衡財政のルール化に押し切った」ことに、本書では次のように言っています。

「日本はついていた」のです。

普通の経済学の本には「ついてなかった」とか「ついてなかった」とかの記載は見たことがありません。本書のその様な記載は小気味良いです。

ニクソンショック後の世界は、金本位制から変動相場制に移行します。金という錨をなくした貨幣が漂ってしまうのではないかという不安を抱えた人たちもいたそうです。

しかし、そうはなりませんでしたと本書は書いています。

金というアンカーを外しても貨幣価値が安定を続けている理由として、著者は「政府への信頼」というアンカーが裏側にあると考察しています。

7.おわりに-変化は突然やってくる

また、本書は現在の「黒田日銀」下での金融緩和の未来を予言しているように思える記述もあります。

「おわりにー変化は突然やってくる」に、下記のような記載があります。

「いつしか私たちは日本の最大の問題はデフレだ、デフレの問題さえ解決すれば良い日が戻ってくる、そう思い込むようになってきています」

「今のデフレから抜け出しさえすれば次は穏やかなインフレになる・・・しかし別のもっと悪いシナリオに落ちてしまうことはないのでしょうか。・・・穏やかなインフレではなく、急激なインフレかもしれません」

次の世界が希望通りに行かないことは、世の中にままあることですが、「急激なインフレシナリオ」は、恐ろしいですね。到来しないことを願うのみです。

8.コロちゃんの感想

「貨幣」や「金本位制」、「金融政策」やその歴史などは極めて専門性が強く、関心はあってもなかなか理解しにくいです。

しかし本書は、その専門的な内容をわかりやすく紹介していると高く評価したいと思います。

本書は、内容が濃くしっかり詰まっていると感じました。とても簡単にまとめることなんてできません。

ところどころをつまみながら、紹介しようとしたのですが、それでもいつもの【読書考】の倍の分量となりました。

強引にまとめた分だけ、正確さは低下したように思います。誤解や分かりにくい点がありましたら、ご容赦願います。

本書の発行は2010年ですからちょっと古い本ですが、内容は全然古くありません。本書を、ぜひ読むことをおすすめします。絶対興味深いですよ。

コロちゃんは、社会・経済・読書が好きなおじいさんです。

このブログはコロちゃんの完全な私見です。内容に間違いがあったらゴメンなさい。コロちゃんは豆腐メンタルですので、読んでお気に触りましたらご容赦お願いします(^_^.)

おしまい。

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