【読書考】「人類の起源」を読んで

読書

コロちゃんは、古人類学の本を読むのが好きです。なんか、ヒトの発生を読んでいると、今の社会と歴史の見え方が違ってくるように思うんですよね。

今日は、DNA解析を駆使した、「人類の起源」という、とても興味深い本を紹介したいと思います・

1.先日も古人類学の本を紹介しましたね

つい先日も、同じジャンルの古人類学の本を【読書考】で紹介したばかりですね。あの本も、日本の弥生人の歯を砕いたDNA解析で、興味深い報告していました。

その本の【読書考】は、以下のリンクからお読みいただけます。

【読書考】「古代ゲノムから見たサピエンス史」を読んで

今日、コロちゃんが読んでご紹介するのは、現在「国立科学博物館館長」をされている篠田謙一さんの著作の「人類の起源」という本です。

コロちゃんの【読書考】で、古人類学の本が続く紹介となりますが、これは偶然です。ちょうど、入手して読んだのが、この順になっただけです。

しかし、この本は最新の知見が、ぎっしり詰まったものでした。化石からDNA鑑定をおこなうのですが、「次世代シークエンサ」という最新の手法が開発されているのです。

この「次世代シークエンサ」という方法は、コロちゃんも知りませんでした。最近開発されたのかなと思い、ポチポチ調べてみました。

下記の引用をご覧ください。

「DNAシークエンシング」より

「DNA 塩基配列決定  とは、DNAを構成するヌクレオチドの結合順序(塩基配列)を決定することである。単にシークエンシングやシーケンシングとも呼ばれる。」

「DNAは生物の遺伝情報を担う分子であり、基本的にはATCGの4種類の塩基からなる配列の形で符号化されている。そのため、DNAシークエンシングによりこの塩基の順序を調べることは、遺伝情報を解析する上で基本となる手段である。」

「手法としては、1977年に開発されたサンガー法その改良法が長らく主流であったが、サンガー法とは異る原理に基づく手法も提唱されており、実用化されている。うオルター・ギルバートとフレデリック・サンガーは、DNAシークエンシングの手法(サンガー法)を開発した功績により、1980年のノーベル化学賞を受賞している。」

https://ja.wikipedia.org/wiki/DNA%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%82%AF%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%82%B0
ウィキペディア (Wikipedia): フリー百科事典:「DNAシークエンシング」より最終更新 2023年3月2日 (木) 08:54 

上記の引用によると、「DNAシークエンサ」は1977年に開発されたとあります。

本書によりますと、その後2006年に「次世代シークエンサ」が実用化されました。

そして、その実用化の結果、古代の化石からのDNA鑑定が次々と実現して、最近になって、続々と新しい発見や新しい解釈が生まれてきているそうです。

それでは、さっそく本書を開いてみましょう。

2.「人類の起源」(篠田謙一 中公新書 2022年)

本書は、「次世代シークエンサ」のお話しから始まります。この技術を使うと、全てのDNAを高速で解読することができるようになったのです。

その後、2010年にネアンデルタール人の全てのDNAの解読に初めて成功し、そのさらに後になると、古代DNA解析による新しい発見が続いているというのです。

コロちゃんは、驚きました。

今までに古人類学の本は、けっこう読んでいるつもりだったのですが、本書のような、人類の創成期の世界展開の内容を、ここまで精密に解読している本は初めてだったからです。

本書は、2020年のデータを裏付けとした考察も載っていますから、現段階での古人類学の最先端の知見だと思いました。

それでは、その内容を簡単に見てみましょう。

3.人類の登場

本書は、古人類学の全体像を新書で紹介しています。

DNA研究が推測する現代人とチンパンジーの分岐の年代は700万年前です。

その後時代を下がると「アルディピテクス族」およそ580~520万年前。

「アウストラロピテクス属」およそ420~200万年前。

「ホモ・エレクトス」およそ190~150万年前。ホモ・エレクトスは最初に出アフリカを成し遂げた人類です。

本書では、上記の古人類の多くの種類を、詳細に綴っています。ちょっと教科書的な内容ですが、全体像が分かりますね。

このブログでは、本書の興味深い点のみを、少しご紹介します。

4.「ホモ・サピエンス」と「ネアンデルタール人」の交雑

2010年の研究で、クロアチアのヴィンデジャ洞窟から、発掘されたネアンデルタール人から採取したDNAが分析されました。

その内容は、アフリカで誕生したホモ・サピエンスが、出アフリカを成し遂げた後に、初期拡散の過程でネアンデルタール人と交雑したというシナリオが提示されたものだったのです。

ネアンデルタール人は、ただ絶滅したわけではなく、私たちの隠れた祖先となっていたことが明らかになりました。

この内容は、報道もされましたので、コロちゃんも知ってはいたのですが、本書では、そのDNA解析の内容まで詳細に書いているのです。とても興味深いですね。

その内容は、アジア人とヨーロッパ人のおよそ2.5%の割合でネアンデルタール人のDNAが混入していることが、明らかになったというのです。

そして、その詳細な解析の結果、5万年以上前の最初の段階から、どうもホモ・サピエンスは、いくつかの集団に分かれていたようで、その中の一つがネアンデルタール人と交雑して、世界に広がったようだというのです。

本書は、このような「ここまで分かったの?」と思わず言いたくなるような知見がたくさん見られるのです。

5.謎多き「デニソワ人」

「デニソワ人」については、コロちゃんが先日読んだ「古代ゲノムからみたサピエンス全史」でも取り上げられていましたが、2010年にシベリア西部の洞窟から発掘された「指の骨」です。

これのDNAが解析され、ネアンデルタール人ともホモ・サピエンスとも異なる、もう一つの人類であることが判明しました。

指一本の化石だけで、ここまで分かったのです。

DNAの証拠だけで、新種とされた最初の人類です。

2019年にはパプアニューギニアやフィジーなどのメラネシアの集団に伝わるデニソワ人由来のDNAを調べることで、交雑の状況が明らかになっています。

デニソワ人とメラネシア人の祖先は、4万年前と3万年前の少なくとも2回は交雑したと本書は書いています。

その他にも、多くの「ゲノム解析」の結果、わかった考察がたくさん書かれておりますが、あまりにも詳細で専門的なので、ここで多くはご紹介できません。

コロちゃんは、再び、ここまで分かったの? と、続けざまに驚くばかりでした。

6.「交雑」の時期まで分かった

本書の詳細な考察は、さらに進んでいきます。

40万年前から、10万年以上前のどこかの段階で、アフリカのホモ・サピエンスとネアンデルタール人は、最初の交雑を行なっています。

そして、ネアンデルタール人のミトコンドリアDNAとY染色体が、ホモ・サピエンスのものに置き換わっています。

その後の世界展開の途中でも、ホモ・サピエンスはネアンデルタール人やデニソワ人と再び交雑し、その時期についても、より詳しい推定がおこなわれているのです。

コロちゃんは、またまた驚きました。このような詳細な考察と新しい知見が、本書にはいたるところにあるのです。

この「ゲノム解析」という「古人類学」が手に入れた新しいツールは、数万年前の人類の移動と交雑の状況が、ある程度推定できる凄い武器だということがわかりました。

例えば、本書には、次のような記載があります。

「ネアンデルタール人とホモ・サピエンスの交雑は、この研究では4万年ほど前のルーマニアで混血が起こった可能性が示され・・・交雑がかなり長期に、しかも広範囲にわたって行われたことが示唆される」

このような、詳細で新しい知見がたくさん載っているのです。

7.出アフリカ後の展開

本書では、私たちにつながる祖先の出アフリカは、6~5万年前と考えられています。

その根拠として、ミトコンドリアDNAとY染色体DNAの系統解析をあげています。

そして、その後のルートも、DNA解析の結果、本書では、ほとんどわかっているように思ってしまいました。

出アフリカから1万年ほどの間に、「東アジア系統」「ヨーロッパ系統」「ユーラシア基層集団の系統」の三つが成立して、それぞれのその後の拡散を推定しているのです。

そして、本書は、それぞれの「集団」について、詳細な考察をしています。

「ヨーロッパ集団」については、「文化的編年」「遺伝的な変換」「農耕と牧畜」「アイスマン」。

それぞれ興味深いものばかりです。

そして、ちょっと面白い内容が、本書の「コラム」に載っていました。

イギリスで、もっとも古い人骨のひとつチェダーマン(1万年前)の、ゲノム解析から明らかになった特徴をもとにつくられた復元像のことです。

なんと、目はブルーなのですが、肌の色は褐色なのです。

下記の引用をご覧ください。

「チェダーマン」より

「チェダーマンは、イギリスのサマセット州チェダー渓谷にあるゴフ洞窟で見つかった人間の男性の化石です。」

「彼の核DNAの分析は、彼が当時の西ヨーロッパの狩猟採集民の典型的なメンバーであり、おそらく青緑色の目、暗褐色または黒髪、および暗褐色または暗色から黒色の肌の表現型を推測し、成人期までのタクターゼ持続に対する遺伝的適応がないことを示しています」

https://en.wikipedia.org/wiki/Cheddar_Man
ウィキペディア (Wikipedia): フリー百科事典:「チェダーマン」このページの最終更新日時は 10年2023月09日 (月) 

1万年前のイギリスの狩猟採集民は、褐色の肌とブルーの瞳を持っていたのですね。

本書によると、皮膚色を暗褐色にするのは、二つの遺伝子(SLC24A5、SLC45A2)で、チェダーマンも同様の遺伝子をもっていたそうです。

皮膚色を明るくするのは別の遺遺伝子(TRY、GRM5)で、5000年前以降にヨーロッパ人の皮膚は白くなったと考えられているそうです。

なんと、白人というのは5000年前以後になってから変異したことによるとは、驚きです。

ねっ、古人類学を知ると、民族や宗教や人種で対立する現在の世界の見え方が変わってくるでしょ?

コロちゃんは、だから「古人類学」が大好きなのです。

8.アジア集団と極東へのグレート・ジャーニー

本書では、1万年前~4万年前に起きた、「古代北ユーラシア集団」の拡散の様子を詳細に解析しています。

完全にはわかっていないと、断ってはいますが、アフリカを出た集団は中東での1万年の停滞の後に、5万年前より新しい時代に、ヨーロッパからシベリアまでの広い地域に拡散したとしています。

ユーラシア大陸東部への拡散には、北ルートと南ルートがあったと考えられています。

南ルートは、インドなどの南アジアを通過する経路で、この集団の中から、東南アジアに進出したグループと、北上したグループ「古代東アジア集団」が出ました。

おそらく、その集団の一部が日本列島を目指したのかなと、コロちゃんは読んで思いました。そのような想像を刺激する、興味深い知見ですね。

9.1万年前の九つの集団

1万年前の世界は、アフリカ大陸とユーラシア大陸です。本書は、そのユーラシア大陸には、遺伝的に区別しうる九つの集団がいたとしています。

西から「西ヨーロッパ狩猟民」
「東ヨーロッパ狩猟民」
「アナトリア農耕民」
「イラン農耕民」
「西シベリア狩猟民」
「古代南インド狩猟民」
「古代東南アジア狩猟民」
「古代東アジア狩猟民」
「古代北ユーラシア集団」

そして、本書は、それぞれの動きや特徴を著述しているのです。そのほとんどが「狩猟民」ですが、「アナトリア」と「イラン」のみ「農耕民」ですね。

「農耕」は1万年前に開始されてとされていますから、この中東の地が「農耕発祥の地」なのでしょう。

10.古代ゲノム鑑定の意義

本書は、他にも「日本列島集団の起源」や「新大陸アメリカへ」など、これもまた興味深い新しい知見をとりあげています。

どれ一つとっても、びっくりするような内容です。

古人類学が、一般に広く知られるようになってから、もう30年ぐらいになるでしょうか。

その間に少しずつ積み重ねられてきた知見が、DNA解析という武器を持つことにより、一気に加速されてきていることを感じます。

コロちゃんは、驚きつつも、DNA解析の威力を痛感しました。これからも、より精密な解析と新しい発見がもたらされると思います。

本書を読むと、古人類史における大きな流れは、大体わかってきたと思いました。

そして、この新しい知見は、現在の世の中の見方を変えていくことでしょう。

著者は、本書の最後に述べています。

「世界中に展開したホモ・サピエンスは、遺伝的にはほとんど同一といっていいほど均一な集団である」

「すべての文化は同じ起源から生まれたのであり、文明の姿の違いは環境の違いや歴史的な経過、そして人々の選択の結果である」

コロちゃんは、まったく同意します。本書を読むとヒトの起源がわかります。そうすると、歴史や文明に対する認識も必然的に変わっていくでしょう。

本書は興味深いですよ。ぜひ読むことをおすすめします。

コロちゃんは、社会・経済・読書が好きなおじいさんです。

このブログはコロちゃんの完全な私見です。内容に間違いがあったらゴメンなさい。コロちゃんは豆腐メンタルですので、読んでお気に障りましたらご容赦お願いします(^_^.)

おしまい。

Erik KaritsによるPixabayからの画像

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