【読書考】「日本はなぜ開戦に踏み切ったか」(森山優 著 新潮社)を読んで

読書

本書は、日米戦争における日本の開戦過程を詳細に検証したものですが、このような緻密かつ大胆な検証は読んだことがないと、興奮する思いを持ちました。

1.国家意思決定システムの欠陥

現在では「侵略戦争として断罪」されている昭和の戦争について、なぜ当時の日本はあのような無謀な戦争に踏み切ったのかと常々思っていました。

しかし、本書の「日本の政策決定システム」と「昭和16年9月の選択」を読むと、当時のリーダーが単に無能だったのでは決してありません。

明治憲法にもともとあった政治システムの欠陥によるものであったことがよくわかるのです。

国務(政治)と統帥(軍事)の分裂については、よく知られていることですが、「軍部や陸軍が決して一枚岩ではなく、むしろバラバラだったことである」とも書かれています。

軍部の中でも、いくつもに分裂していたのです。

特に陸軍は組織が大きかっただけに、4つのステージで内部調整をしながら順次上部に「国策」を上げていくシステムだったそうです。

そうであるがゆえに、内容は「両論併記」と「非決定」(先送りで対立を回避)にならざるを得なかったとあります。

そのために、「日本の意思決定システムは『船頭多くして船山に登る』状態だった。誰かが強硬に反対すれば決定できない。まさに独裁政治の対極であった」と書かれています。

よく、これであの様な大戦争を始められたものだと思いました。これではその場の成り行きで戦争になってしまったという事ではないかと驚きます。

「効果的な戦争回避策を決定することができなかったため、最もましな選択肢を選んだところそれが日米戦争だった」ことには、ため息が出る思いがしました。

当時の日本が、政治のリーダーシップがない中で、流されるままに「日米開戦」という国家の重大な岐路に至ったとは驚きです。

2.官僚組織の割拠性

本書では「陸海軍」首脳の動きを詳細に追いかけています。日米開戦に至る国家中枢の動きが、よく分かるのです。

その中で著者は、日本は一気に日米開戦になだれ込んだわけではないと書いています。

「結局、組織的利害を国家的利害に優先させ、国家的な立場から利害得失を計算することができない体制が、対米戦という危険な選択肢を浮上させた」と指摘しています。

これが「官僚組織の割拠性」というものなのでしょうか。

陸軍は「中国からの撤兵」を断固拒否しています。

しかし、著者は「アメリカと戦って敗れれば、中国大陸の利権を失うというレベルでは済まない・・・最大の問題は、日米戦と中国からの撤兵を天秤にかけて判断する政治的主体が日本のどこにもなかったことである」と語っています。

これが当時の日本の政治システムが内包する欠陥だったのでしょう。

3.内部対立回避のために戦争を選ぶ

著者は、本書の「おわりに」で以下の様なまとめを書いています。

「後世の目から冷静に評価すれば、戦争に向かう選択は、他の選択肢に比較して目先のストレスが少ない道でもあった。…実は、回避されたのは・・・そのような種々の係争が予想される選択肢だったのである。つまり、内的なリスク回避を追求した積み重ねが、開戦と言う最もリスクが大きい選択であった」

「開戦決定は、一見、非決定(先送りで対立を回避)から踏み出した決定に思えるが、非決定(先送りで対立を回避)の構造の枠内にとどまっていたのである」

当時の日本の指導者たちは、内部対立を先送りする為に戦争を選んだということなのでしょうか。その道を選ぶことによって失った人命を思うと、ため息しか出ません。

4.教訓は受け継がれているか

また、この「日本が開戦に向かう政治過程」を読むと、現在の日本と重なるところも多いと思いました。

「省益あって国益なし」「政治のリーダーシップの欠如」「官僚の力の増大」「決定ではなく非決定(先送りで対立を回避)の構造」「不都合な未来像の直視を避ける」等々。

多くが現在の政治風景と重なります。ということはこの日本の政治システムの欠陥はいまだに是正されていないということなのでしょうか。

本書を読んで、日本は戦後70年以上たってもあまり変わっていないのではないのかとも考えてしまいました。

本書は、歴史の検証の面白さと、凄さを知ることができる良書であると高く評価します。本書を、ぜひ読むことをおすすめします。絶対興味深いですよ。

コロちゃんは、社会・経済・読書が好きなおじいさんです。

このブログはコロちゃんの完全な私見です。内容に間違いがあったらゴメンなさい。コロちゃんは豆腐メンタルですので、読んでお気に触りましたらご容赦お願いします(^_^.)

おしまい

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