【読書考】「脱『中国依存』は可能か」を読んで

読書

コロちゃんは、読書が趣味です。好きなジャンルは、「社会」「経済」「歴史」ですが、「中国」の本も好きです。

なんてったって「中国4000年のの歴史」ですもんね。

もちろん、古典ではなく、読むのは近代中国です。特に最近の中国の動向は、日本の将来とも深く結びついていますので、新しい本が出てくると、すかさずチェックします。

本書は、そのようにして見つけました。どんな本だったのかをポチポチしますので、ご興味をお持ちになったら、ぜひお読みください。

1.コロちゃんが、中国に興味を持つわけ

コロちゃんが、なぜ、近代中国に興味を持ったかというと、日本の明治以降の歴史を読んで、そのまま昭和まで、読み続けていくと、必然的に日韓併合から日中戦争にまで至るからです。

当然歴史の、中国側の視点も読みたくなります。歴史は立体的に見ると面白いですからね。

そして、現在の日本と中国の関係です。日中関係は、歴史の軋轢を抱えつつも、経済関係は深く結びついています。

現在の日中の貿易を見ると、2020年のデータでは、日本の貿易における中国の構成比は、輸出が22.1%、輸入は25.8%で、国別では1位です。

日本は、日常の生活に欠かせない品目のかなりの部分を中国から輸入しているのです。

コロちゃんが、スーパーに行って売り場を見渡しても、かなりの商品が中国製か、材料に中国産が入っていますし、百円均一の店に行っても、大部分は中国製かと思われます。

もちろん、中国には工作機器などの輸出も盛んにおこなわれています。

その経済的に深く結びついた中国と日本で、最近「デカップリング」という話が出てきますと、コロちゃんは「ホントにできるの?」と常々思っていたのです。

本書は、それを疑問に答えてくれるのかもしれませんと思って、興味津々で本を開きました。

2.「脱『中国依存は可能か」(三浦 有史 中央公論社 2023年)

ここからが、感想です。

本書は一般書と言うよりも、ほとんど専門書に近いと感じました。あまりにもデータが多く、内容が精緻なので、読むのが大変です。

まず、冒頭の筆者のイメージする姿として、以下のように書いています。

「世界の工場である中国といえども、日米を排除したサプライチェーンを構築することはできない」

ちょっと安心するお言葉ですね。コロちゃんも、今の日本と中国は、お互いに関係を絶つわけにはいかない関係だと思います。

そして、著者は執筆の動機として、以下の言葉をつづります。

「日本は、中国の隣から引っ越すことができず、相互依存関係はますます強まる。であれば、好きか嫌いかという感情をいったん脇に置いて、中国経済に向き合う必要がある」

コロちゃんも、まったく同感しますね。本章を読むのが楽しみです。それでは、次をのぞいてみましょう。

3.進まぬ米国の脱「中国」依存

本書は、米国がトランプ政権時から、「脱」中国依存を発言し、実行しているにもかかわらず、現実には、それが進んでいないことを、具体的な数字で指摘しています。

その分析は、貿易品目分類の詳細に分け入っての精緻なものです。素人のコロちゃんには、ちょっと読むのがつらいほど細かいです。しかし、説得力はありますね。

そして、脱「中国依存」が進まない理由として、次を概念を指摘しています。

「GVC」(グローバル・バリュー・チェーン)の中心がアジアにあるというのです。

①「GVC」(グローバル・バリュー・チェーン)とは何か

「GVC」(グローバル・バリュー・チェーン)とは何かを調べてみました。以下の引用をご覧ください。

「内閣府 1 グローバル・バリュー・チェーン(GVC)の構築と我が国経済」より

「GVCとは、複数国にまたがって配置された生産工程の間で、財やサービスが完成されるまでに生み出される付加価値の連鎖を表す」

https://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je14/h03-02.html#:~:text=GVC%E3%81%AE%E5%AE%9A%E7%BE%A9%E3%81%AB%E3%81%AF,%E9%80%A3%E9%8E%96%E3%82%92%E8%A1%A8%E3%81%99%E3%81%A8%E3%81%84%E3%81%88%E3%82%8B%E3%80%82
出典:内閣府 平成26年度 年次経済財政報告 第3章 第2節 グローバル市場と我が国産業の課題 より(4月5日利用)

上記の引用を読むと、「GVC」(グローバル・バリュー・チェーン)とは、最終的な商品となる過程の「付加価値」の連鎖を指す言葉のようです。

この、「付加価値」という概念が必要となったのは、現在のグローバル貿易の中で、最終商品が、一国の中で完結されなくなっている製造業の実態があるのだろうと思います。

コロちゃんが頭に浮かんだのは、スマホですね。

アイデアと設計はアメリカで、部品は台湾で、組み立ては中国ですね。商品が一国の中で完結しません。

②「付加価値輸出」とは何か

もう一つ「付加価値の連鎖」について、ポチポチと調べてみましょう。

「独立行政法人 産業経済研究所 2.世界的な生産分業体制と付加価値貿易」より

「付加価値輸出という新しい視点が必要になった背景には、現実世界での生産工程レベルでの国際分業の進展がある。」

「ここで、付加価値輸出(額)とは、最終財の付加価値額の起源に基づいて測った輸出額のことである」

https://www.rieti.go.jp/users/tanaka-ayumu/serial/026.html#:~:text=%E4%B8%96%E7%95%8C%E7%9A%84%E3%81%AA%E7%94%9F%E7%94%A3%E5%88%86%E6%A5%AD,%E5%A4%A7%E3%81%8D%E3%81%AA%E5%95%8F%E9%A1%8C%E3%81%AF%E3%81%AA%E3%81%8B%E3%81%A3%E3%81%9F%E3%80%82
出典:行政独立法人 経済産業研究所 国際貿易と貿易政策研究メモ 第26回「付加価値貿易」より(4月5日利用)

上記の引用を読むと、以前は国際貿易は、商品の「取引額」を見ればわかっていたのですが、現在の商品は、世界中から原料を集めて、加工し、組み立てを行い、最終商品化されています。

その実態を的確にとらえるには、その時点その時点の「付加価値」を調べなければわからなくなっているということだと思います。

4.「GVC」(グローバル・バリュー・チェーン)はアジアにある

本書は、データを基にして、その「GVC」(グローバル・バリュー・チェーンがアジアにあると言います。

2018年の世界の製造業の、付加価値輸出に占めるアジア全体の割合は、38.3%に達すると言っています。

アジアは間違いなく製造業の集積地なのだというのです。

①「ロックイン」効果

脱「中国依存」が進まない理由として、本書は「ロックイン効果」を上げています。

下記の引用をご覧ください

「ロックイン効果」とは

「ロックイン効果とは、経済学用語のひとつである。例えば、消費者があるメーカーの商品を購入した場合に、商品を買い換える場合にも引き続いて同じメーカーの商品を購入するようになり顧客との関係が維持される効果をいう」

「このようになる要因としては、買い換えるときのメーカーを変更したならば、そのときに必要となるが多くかかってしまうことが存在しており、コスト削減のために同じメーカーの商品を買い続けるというわけである。(技術的ロックイン)」

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%A4%E3%83%B3%E5%8A%B9%E6%9E%9C
ウィキペディア (Wikipedia): フリー百科事典:「ロックイン効果」最終更新 2020年7月10日 (金) 17:51

この上記の「ロックイン効果」は、近接性が高まることで、財・サービス市場やアイデアへのアクセスも良くなるなどの効果もあると言っています。

そして、脱「中国」依存を進めることの「コストの増加」です。企業競争を高めるための「在庫」を絞る「ジャストインタイム」を見直なければならなくなります。

既に「GVC」(グローバル・バリュー・チェーン)が完成しているアジアから、別の場所に移転する脱「中国依存」は、このように困難さがあると、本書は書いています。

5.貿易依存度の低下が示す内製化

本書によると、中国の貿易依存度は2006年に64.5%でしたが、2020年には34.5%と30ポイントも低下しています。

これには、コロちゃんは驚きました。「中国」の「貿易依存度」が著しく低下しているというのです。

「貿易依存度」とは何か、以下の引用をご覧ください

「貿易依存度」とは

「貿易依存度とは経済学用語の一つ。貿易開放度とも呼ぶ。一国において国内総生産(GDP)に対しての輸出輸入額の比率をいう」

「これの割合は経済規模が小さい国家ほど大きくなっており、それには自国内のみの生産だけでは国家全体に対する需要を満たすことが不可能であることから、国家を運営するためには貿易に頼らざるを得なくなっているためである」

「現代において貿易依存度は世界各国で高まっており、日本の貿易依存度は、2000年代ならば10%台を推移している状態である」

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B2%BF%E6%98%93%E4%BE%9D%E5%AD%98%E5%BA%A6
ウィキペディア (Wikipedia): フリー百科事典:「」最終更新貿易依存度 最終更新 2022年8月30日 (火) 12:47 

上記の引用の通り、貿易依存度が高いと、国家を運営するための需要を満たすには貿易に頼らなければならなくなります。

その貿易依存度が、中国では近年著しく低下し「内製化」が進んでいるというのです。

「内製化」の進展は、脱「中国依存」の動きを打ち消します。

これを著者は、世界の製造業は、以前にも増して、中国を震源とするサプライチェーン寸断のリスクに対して脆弱になったと言っています。

コロちゃんは、この章を読んで、最近の中国の「自立・自強」のスローガンについて思っていたことが誤りだったことに気が付きました。

コロちゃんは、「自立・自強」のスローガンは、かつての毛沢東時代の「自力更生」を思い起こす政治的なスローガンと思っていたのです。

しかし、貿易依存度が急減しているということは、「自立・自強」は、極めて現実的なスローガンなのかもしれません。

日本の抱えるサプライチェーンのリスクは、以前よりも大きくなっているのではないかと思いました。

6.米中対立の行方

本書は、米中対立の今後について、内製化が進んでいるにもかかわらず、中国の「自立・自強」は実現不可能であるために、対立が急速に悪化する可能性は低いとしています。

これを読んで、ちょっと安心しました。

著者は、この「自立・自強」の進展度合いを調べるために、国際収収支の知的財産権貿易から「顕示比較優位指数(RCA)」を算出して、中国の競争力の高低を調べています。

そして、習近平政権が目指す「地財強国」への道のりは遠いと結論を出しています。

スマホの例を引いても、一つの製品を作るためのサプライチェーンは、長く複雑化しています。

貿易依存度の低下は、中国にとって「自立・自強」の進展を意味しないばかり、サプライチェーン寸断のリスクは高くなっているとしています。

著者は、以下のように断言しています。

「「GVC」(グローバル・バリュー・チェーン)が発達した今日、相互依存関係にある国の貿易戦争においてどちらか一方だけが勝者となることはない」

この結論には、全く共感します。経済的には、デカップリングには何の利益もないのですが、安全保障という理由で進められています。

しかし、著者は、完全なデカップリングは難しいと考察しています。

7.中国の所得格差

本書は、中国の「不動産バブル」や「過剰債務」の問題も扱っていますが、ここではコロちゃんが興味を持った「中国の所得格差」について、取り上げて感想を述べます。

中国の所得格差は、世界的に見ても大きい部類に入るそうです。格差の指標である「ジニ係数」は、2019年で0.465と高いです。

下記の引用をご覧ください。

「ジニ係数」

「ジニ係数とは主に社会における所得の不平等さを測る指標である。」

「0から1で表され、各人の所得が均一で格差が全くない状態を0、たった一人が全ての所得を独占している状態を1とする。ローレンツ曲線をもとに、1912年にイタリアの統計学者、コッラド・ジニによって考案された」

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%8B%E4%BF%82%E6%95%B0
ウィキペディア (Wikipedia): フリー百科事典:「ジニ係数」最終更新 2023年3月12日 (日) 03:59 

格差が全くない状態を「0」、たった一人が所得を全部独占している状態を「1」で表します。

だいたい0.3以上は、格差が大きいとされ、0.4を超えると社会騒乱の警戒ライン、0.6を超えると革命が起きると言われることもあるそうです。

上記でも書いたように、中国の2019年のジニ係数が0.465というのは、非常に高い数値です。(日本のジニ係数は0.3台です)

中国は、社会主義を掲げているのですが、世界の中でも格差の大きい国なのです。

しかし、経済が高成長していて、人々の階級上昇が実現しているうちは問題が表面化しませんが、経済が停滞するようになると、たちまち社会不安が起きてきます。

「共同富裕」というスローガンは、その背景の下に出されてきたのでしょう。

本書は、その政策の内実を詳細に検証しています。

2020年の中国全体の上位2割の高所得階層(第5五分位)の一人当たりの可処分所得は、下位2割に当たる低所得層(第1五分位)の10.2倍とあります。

日本の、同じ格差の数値は、2.6倍にすぎないので、中国の格差の大きさがわかるとしています。

ただ、この格差を低下させる政策には、不動産税や日本では相続税に当たる遺産税の導入なども、話しは出ていますが、進んでいないようです。

やはり、既得権益層が多数いるところに切り込む改革は、権威主義的な政治制度においても、なかなか困難なことがわかります。

コロちゃんは、ジニ係数の国際比較で、中国の数値が高いのは知っていましたが、所得格差が資本主義国である日本よりも、5倍近い数字には驚きました。

この数字では、中国で「暴動」が起きてもおかしくないとも思いました。本書では、いろいろと他では知ることができなかった知見がたくさん得られたように感じました。

8.日本は「成熟債権国」

本書は、日本の現状を考えるにあたって「国際収支発展段階説」を取り上げています。

「国際収支発展段階説」は、1950年代にクローサーやキンドルバーガーによって提唱された説だそうです。

この説の骨子は、ライフサイクルに応じて家計の収入、借入、資産が変化するように、国も発展段階、とりわけ輸出産業の競争力によって国際収支構造が変化していくというものです。

その変化は、以下のように変わるとされています。

1、未成熟債務国→
2、成熟債務国→
3、債務返済国→
4、未成熟債権国→
5、成熟債権国→
6、債権取崩国

本書では、この説に沿って日本の現段階を確認すると、日本は「4、未成熟債権国」から「5、成熟債権国」に移行しつつあると言えるとあります。

そして、今後も「成熟債権国」としての様相を強めていくとしています。「成熟債権国」の特徴は、対外純資産の規模が拡大するとともに、所得収支が拡大することにあります。

日本の2020年の対外純資産は、3兆4421億㌦と、世界最大の「対外純資産国」であるとしています。

このように日本経済の位置と今後が、はっきりわかると、安心感を持ちますね。

9.中国経済を俯瞰

コロちゃんが、本書を読み始めるときには、単に脱「中国依存」は可能なのかという点だけを知りたいと思っていましたが、本書は、その結論を単純に答える本ではありませんでした。

中国の製造業と世界の製造業の実態と、日本の占める位置や、それを取り巻く諸状況を網羅した本でした。

かなり、専門的な用語が出てきますので、もちろん全部を理解することはできませんでしたが、全体の風景をぼんやりと感じることはできたと思います。

本書のあとがきに、著者の印象言葉深いがありました。

「中国を否定することで安易に「溜飲を下げる」習慣を身に着けてはならないということである」

「中国経済については、消化不良を感じるくらいがちょうどいい。これは安全保障を米国に依存しながらも、経済はその米国と対立関係にある中国に依存する日本人の宿命と考えるよりほかない」

そして、最後の以下のように語っています。

「中国経済を俯瞰できるようになったと感じる人がいれば、著者として望外の喜びである」

コロちゃんは、到底そこまではいきませんが、なんとなく奥行きを持ってこの経済問題を見ることができるようになったように感じました。

本書は興味深いですよ。ぜひ読むことをおすすめします。

コロちゃんは、社会・経済・読書が好きなおじいさんです。

このブログはコロちゃんの完全な私見です。内容に間違いがあったらゴメンなさい。コロちゃんは豆腐メンタルですので、読んでお気に障りましたらご容赦お願いします(^_^.)

おしまい。

CouleurによるPixabayからの画像
PVアクセスランキング にほんブログ村

コメント

タイトルとURLをコピーしました