【読書考】「2030半導体の地政学」を読んで

読書

おはようございます。コロちゃんの趣味は「読書」なんですが、最近はブログの毎日更新で、なかなか読書時間が取れなくなってしまっています。

だって、ブログ1話をポチポチするのに、大体3時間はかかるんです。いつも、もっとコロちゃんの文章力が上がらないかなー、などと考えながらポチポチしています。

その中で、時間をひねり出して、最近興味があった「半導体」の本を読んでみました。その感想を、今日のブログでお話します。

1.米中で「半導体」をめぐる争いが

最近報道で、米中の「半導体」をめぐる争いの様子がよく流されています。

2月には、アメリカの強い要請で、日本とオランダが、半導体製造装置の対中輸出制限に加わるという報道もありました。

アメリカと西側諸国が、半導体の先端技術の装置の輸出について、対中国の締め付けを始めたそうですが、汎用品については、その限りではない模様です。

コロちゃんは、もう70歳近くのおじいちゃんで「アナログ人間」ですから、そういった「半導体」の細かな製品区分けは、よくわかりません。

それで、その「半導体」をめぐる争いの詳細を知りたいと思って、本書を手に取りました。

2.「2020半導体の地政学」(太田康彦 日本経済新聞出版 2021年)

本書の著者は、日経新聞の編集委員兼論説委員を2004~21年まで務められた方です。新聞社出身の方が書かれた本らしく、「半導体製造」の複雑さをわかり易く書いています。

現在を生きている私たちは、この米中対立が、けっこう昔から続いているように思ってしまいます。

しかし、本書の冒頭は、アメリカ・ホワイトハウスの「ルーズベルトルーム」から始まります。

2021年4月12日、オンラインで「半導体CEOサミット」が開かれました。

参加者は、バイデン大統領と政権中枢の面々、あとはグーグル・GM・フォード・インテル等の、アメリカの19人の企業経営者たちです。

この会議から、半導体産業をテコ入れするワシントンの動きが加速することとなったと、本書は書いています。

現在から、わずか2年前にアメリカは、中国との、本格的な半導体の争いのゴングを鳴らしたのですね。

それがどういう理由からなのかを、本書は詳細に書いています。

自動車には、最低でも30個の、高級車では100個以上の半導体が搭載されていると言います。兵器においても、機密性が高い専用チップが軍事力を決めると言います。

1980年代には、半導体は「産業のコメ」と言われました。

しかし、もはや半導体は、コメで連想される大量生産の安価な汎用品ではなく、社会のDXが進めば、少量生産の専用チップが必要になって来るというのです。

その結果を、本書は次のように言っています。

「半導体を制する者が世界を制する」と。

3.「半導体」の分野別市場シェア

本書には、「半導体」の分野別の市場シェアの一覧表が載っています。それをちょっと見てみます。

半導体製造技術分野を見ると、アメリカが市場で首位の分野は、「半導体チップ(最終製品)」「設計ソフト」「要素回路ライセンス」「半導体製造装置」です。

台湾が市場で首位の分野は、「ファウンドリー」「製造後工程」です。

そして日本が市場で首位の分野は「ウエハー」です。

「中国」は「製造後工程」に、2位で出てくるだけです。

この市場シェアを見ると、圧倒的にアメリカが市場支配をしているように見えますが、「製造後工程」のみが、「台湾」と「中国」に集中しています。

アメリカは、もし、台湾沖で危機が発生したときには、サプライチェーンの「製造後工程」部分が寸断してしまうことを懸念しているのではないかと思われます。

しかし、こうやって見ると、「半導体製造」のほとんどの工程で、アメリカは圧倒的に優位です。

ただ、中国もすぐに反応したそうです。「中国を仮想的とするこ都に、断固反対する」と。

なんとも緊張感に満ちた状況かとコロちゃんは思いました。このような「半導体」をめぐる駆け引きは、報道では見ることはできません。

米中の緊張関係は、ずいぶん前から始まっていたとため息をつく思いでした。

4.「半導体」の争い

本書によると、バイデン政権の狙いは米国に足りない製造分野の穴埋めだと言います。サプライチェーンを自国内で完結することを目指しているというのです。

そのためにバイデン政権は、2021年3月に2兆㌦規模のインフラ投資計画を発表し、半導体業界に500億ドル(約5兆5000億円)を割り当てる方針を明らかにしたそうです。

それに対し、中国は、官製ファンド「国家集積回路産業投資基金」から5兆円をこえる政府助成を実行、地方政府のファンドを加えると、合計10兆円以上が投じられたとされています。

コロちゃんの目からは、圧倒的にアメリカが優位に見えますが、中国の巨額の政府支援によるキャッチアップでどこまで追いつくことができるのかは、本書でもわかりませんでした。

5.デカップリング 

本書では、「デカップリングは起きるか」と題して、トランプ政権でのファーウェイの例や、ケネディ大統領時代の通商拡大法の例を詳しく紹介しています。

そして、続けて韓国の文在寅大統領の徴用工問題時に、日本が化学品の輸出管理を厳しくしたことを紹介しています。

コロちゃんは、その筆致の様子から、このようないわば「禁じ手」は、自由貿易秩序の崩壊の始まりになりかねないと、懸念した書き方になっていると思いました。

なんといっても、自由貿易は、日本にとって死活的問題だと思っていますから、もし中国との冷戦になったら、明らかに日本の利益にはなりません。

安全保障と自由貿易のはざまの着地点を、よく見てみたいとコロちゃんは思っています。

6.TSMC(台湾積滞電路製造)

本書では、TSMC(台湾積滞電路製造)を「化け物のような会社」と言います。

2020年の売り上げ高は、5兆円を超え、21年の設備投資額も3兆円規模を想定し、3年間に予定する投資額は合計11兆円に上ると言います。

アメリカの要請で着工したアリゾナ工場では、5ナノの製造技術を移転するが、その完成は24年です。

その時点では、台湾ではすでにその先の3ナノを量産し、中国の南京工場では、1世代前の16~12ナノを生産するなど、バランスを取って米中両国と適度な距離を取っていると言います。

コロちゃんは、新聞で時々TSMCの記事を見ますが、それは熊本工場の進出の話しが多く、TSMCの内情などはあまり記事になりません。

ですから、創業者のモリス・チャンの経歴なども、興味深く読みました。

大陸中国の浙江省寧波市で生まれ、共産党と国民党の内戦のもとで、香港の小学校に通い、その後、香港からアメリカのハーバード大学へと進みます。

そして、MIT(マサチューセッツ工科大学)から、アメリカの電機業界へと入り、その後1985年に台湾に戻っています。

なかなか、劇的な人生をおくられていますね。興味深いです。

7.「中国」自給自足の夢

2020年5月にアメリカ・トランプ政権は、中国のファーウェイに対し、決定的な禁輸措置を実行しています。

1年前に始めた禁輸措置をさらに強め、米国の製造装置やソフトウエアを使っていれば、第三国からの輸出も規制対象にしたのです。

台湾からの供給を絶たれたからには、中国は国産ファウンドリーにテコ入れするしかなくなりました。

本書は、その経過を詳細に追っています。米国の制裁が本格化するにつれて、中国の装置メーカーの技術開発のスピードが上がったそうです。

本書は、米国の制裁は、たしかに中国を追い詰める効力があった。だが皮肉にも制裁によって逆に製造技術が発達した面もあると書いています。

コロちゃんは、ここまでアメリカと中国が、半導体をめぐって熾烈な争いをしていたとは、知りませんでした。

つい先日の2月に、アメリカの強い要請で、日本とオランダが半導体製造装置の対中輸出制限に加わるという報道があったということは、だんだん規制を強めているということなのでしょう。

本書は、「飢えた狼は生き残るか」との見出しで、次のように書いています。

「惜しげもなく補助金をばらまく政府の支援をバックに、国産メーカーが採算を度外視して猛進しているとしたら・・・・。」

「追いかける走者は、前を走る選手の背中が見えている。先行する走者は追われていることに気づかないこともある。」

なんとも、意味深な言葉ですね。

8.「半導体」が「国家戦略」に

その他にも本書は、「デジタル三国志が始まる」「日本再起動」他、いろいろと周辺事情を記載していますが、それなりに興味深い点もありました。

一番気になったのは、「半導体」はビジネスではなく「国家戦略」であると、日本の政治家が語り始めたということです。

本書は、2021年の自民党の「半導体戦略推進議員連盟」の政治家の発言として、以下の発言を紹介しています。

「全産業のチョークポイントとなりうる半導体は、経済安全保障の観点からも見なければならない。産業政策ではなく国家戦略として考える」

なんとも、不安な気分になりますね。

ビジネスではなく「国家戦略」だとなると、経済合理性はどこかへ行ってしまいます。場合によっては、その争いで「戦争」になることもあるかもしれません。

日本はかつて、「石油」を国家戦略として扱うことによって「戦争」に入っていった過去があります。「国家戦略」とはそれほどの重みをもっていると、コロちゃんは考えています。

本書は、「あとがき」に、以下のように書いています。

「米国が本気になって日本に怒り、国家の芯を覗かせた場面があります。戦闘機「FSX」を独自に開発する日本の計画を阻止した時・・・そして半導体摩擦です。」

「日本にとって半導体はビジネスでしたが、米国は国家を守っていたのでしょう」

「半導体」という、多くの電気器具や車の中に使われている機械装置が、このような国家間のシビアな争いとなっている事情を、本書は教えてくれています。

この「1980年代の日米半導体摩擦」の結果、当時世界首位のシェアを持っていた日本の半導体は、その後凋落しました。アメリカの半導体産業に敗れたのです。

コロちゃんは、本書を読んで、「半導体」のニュースの影には、アメリカと中国の国家意思の争いが水面下にあることを、ハッキリと知りました。

本書は、2021年11月の発行ですから、その後に情勢はだいぶ変わっているでしょう。いよいよコロちゃんは興味尽きない思いを持ちましたね。

もちろん、この「半導体」をめぐる米中の争いが、平和裏に決着することを一番に願っています。

本書は興味深いですよ。ぜひ読むことをおすすめします

コロちゃんは、社会・経済・読書が好きなおじいさんです。

このブログはコロちゃんの完全な私見です。内容に間違いがあったらゴメンなさい。コロちゃんは豆腐メンタルですので、読んでお気に障りましたらご容赦お願いします(^_^.)

おしまい。

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