【読書考】「なぜ日本の会社は生産性が低いのか?」を読んで

読書

コロちゃんは、毎日昼間はほとんど読書をして過ごしています。なにしろ、リタイア生活のおじいちゃんで、腰痛もちですので、「読書」が唯一の趣味なんです。(´_`。)グスン

今回は、先日「日本が韓国に抜かれた」という内容のブログを記載しましたので、その理由の本が読みたいと思って本書を手に取りました。

「なぜ日本の会社は生産性が低いのか?」(熊野英生 文芸春秋 2019年)

つい最近に、このブログで「一人当たりGDP」で韓国に抜かれたお話しを書きました。その内容は下記のリンクからお読みください。

【経済考】先進国とは何か?

このブログの内容は、日本の全体的なマクロ経済についての考察でしたが、ミクロの企業における「生産性が停滞」していることについて知りたいと考えて、本書を見つけました。

①ワンオペが未来を奪う

読んでみると「はじめに」のつかみから面白いんです。

現在の労働現場では、「ボッチ仕事」というワンオペが増えていると言ってます。中高年のサラリーマンの中で、一人でプロジェクトを進めている役職者が多くいるというのです。

「劇団ひとり」ならぬ「チーム自分ひとり」だというのです。

本書は言います。「本来、企業とは、大人数が協働することによって一人仕事よりも生産性を高めることを目的としてつくられたはずである」と。

それが「チーム自分ひとり」になってしまうと、生産性を上げるために日々努力しているそれぞれのノウハウが誰にも継承されることはなくなるというのです。

そして、企業経営者は「生産性上昇」というミッションを、組織として考えることをせずに、個人に丸投げしている側面が隠れていると指摘しています。

なるほど、企業経営者が目先の利益を優先して、長期的な「生産性上昇」を考えなくなったということですね。

②「働き方改革」と個人への押し付け

「生産性を高めよう」との動きは、2016年に安倍政権が「働き方改革」を提唱ししたことで、社会全体に広がりました。

しかし、その内容は「個人のオペレーション」に強く依存した形で生産性上昇を求めるものとなっています。

「個人の頑張りで何とかしろ」と。

本屋さんで見かける生産性向上についての指南書のほとんどが、「個人のスキルアップ」についてのものです。

本書は指摘します。「いくら個人が頑張っても、企業組織やチームの生産性は、全体の機能やビジネスモデルが変わらなければ、大きく向上することはない」と。

著者は、旧日本軍の「失敗の本質」を例示して、「共通した体質がにじみ出てくるところが怖い」と書いています。

ここまで読んだだけでも、現在、生産性向上に「リスキリング」が奨励されている危うさに気づきます。

企業の「生産性向上」には、企業組織の機能向上やビジネスモデルの変革が必要なのに、個人の頑張りのみを奨励することは、精神主義の過去と変わらないのでないか思ってしまいますね。

③ジリ貧の国民所得

まずは、指標です。コロちゃんは、前回のブログで「一人当たりGDP」を取り上げましたが、本書では「国民所得」に注目しています。

OECD諸国ランキングでの2016年時点で、19位です。過去日本は1986~97年まで3位か4位を保持していたことを思うと、その凋落ぶりは際立っています。

本書は、この日本の経済的地位の低下は、「生産性の低下」によって生じたものだと言っています。

その原因として、高齢化だけではこれほど劇的な生産性の低下はないと主張して、90年代から非正規雇用に就業者がシフトしていったことを上げています。

④低い生産性

日本の弱点は「サービス業」 

業種別の労働生産性のデータを分析し、そこから平均年収を計算しています。

飲食店(108万円)、洗濯・理容・美容・浴場業(125万円)、持ち帰り・配達飲食サービス業(148万円)など個人サービス部門はとりわけ低い実態があるといいます。

この労働集約型サービス業だけが就業者数を増やしているというのです。

もっとも労働生産性が低い労働集約型サービス業にほかのカテゴリーから就業者が移動してくるので、結果として全体平均の生産性が下がってしまっていると考察しています。

医療・福祉・介護に目立つ低生産性

医療・福祉・介護は、労働集約的な性質がとりわけ強くて、機械化・システム化によって生産性が高まりにくい。また、財政再建の必要から構造的な低生産性になっているとも言っています。

顧客の高齢化問題

会社員が高齢化するだけではなく、個人向けサービスの主な顧客も高齢化していると言っています。

いまや個人消費の49.2%(2017年)が、世帯主60歳以上のシニア消費によって占められているのです。

高齢者は節約志向が強いため、高齢者向けのサービスは価格を引き下げないと成り立たちません。

そうなると労働者を非正規化させてコストを下げていかざるを得ない。そこで賃金の低い非正規労働者の増加となります。低生産性が再生産されることとなっているというのです。

これらの理由を挙げているのですが、やはり「生産性の低下」には非正規雇用の増大が、いくつもの回路から影響しているように思われます。

⑤1990年代の日本と現在の日本

思い出してみると1990年代半ばの企業では、上司は自分で作業をしなかったと書いています。

部下を呼びつけて、指示を出し、決済印を押すのが仕事だったというのです。

また、自席で出勤後1時間ぐらいは新聞を読んでいたとも書いています。

のどかな時代でしたが、現在から振り返ってデータをみると、当時の方が生産性は高い。

現在は、多くの人が一人仕事で業務を行っており、上級管理職でも変わらない。

「皆が戦力」となり、誰もが余裕なくせかせかと動き回っている。

しかし、昔はこんなではなかったのだと、日本が豊かな時代には余裕があったのだと振り返っているのです。

筆者はその余裕がなくなった原因を、社内人口の高齢化にあるとしています。

⑥社内の高齢化によって起きたこと

社内人口が、高齢化によってピラミッド型から逆ピラミッドになると、人件費負担が急増します。

高齢化による人件費の急増を恐れた経営者は「成果主義」を導入します。隠された目的は「人件費の抑制」です。

「成果主義」はいろいろ問題をはらんでいましたが、人件費抑制という大目的がある限りは、「成果主義」を全く取り入れないわけにはいかなかったのでしょう。

その「成果主義」の定着によって、企業が個人を単位に業績を考えることが当然視される風潮を生んだと本書は指摘しています。

社員に余裕がなくなり、会社が個人単位に業績を考えるようになると、社内でのスキルの伝承の社内教育も行われなくなります。これも生産性低下を引き起こしたとされています。

⑦弊害も多い

パソコン仕事が主流となると、部下の事務能力の差は鮮明となります。

すると、優秀な部下の奪い合いが起き、職場から余裕が失われ、若手たちの前向きの意欲が失われる結果となったと指摘しています。

また、ワンオペ仕事の中で、教育習慣も失われたとも指摘しています。日本企業から、重要な教育習慣が失われたことが生産性低下の理由の一つだとしているのです。

日本企業の「教育投資と労働生産性との関係」について、2018年「経済財政白書」(内閣府)を紹介しています。

「平均的には 1人当たり人的資本投資額の 1%の増加は、0.6%程度労働生産性を増加させる可能性」と白書では書いています。

その内容を著者は「厳密な加工計算を必要とする」と留保しつつも、以下の結論には同意しているのです。

「人材投資が少なくなったから、日本の生産性が伸びなくなった」と。

⑧「働き方改革」の錯覚

長時間労働をなくすには、「生産性上昇」が必要です。

しかし、長時間労働は一人当たりの仕事量が多すぎてさばききれないことが原因です。「自分で工夫すれば長時間労働をなくせる」とは納得ができないと主張しています。

マネジメントに問題があるのです。そこが未解決のまま規制で上限を縛っても、長時間労働は隠されてしまうだけです。

⑨生産性上昇は個人任せでできない

本書は「経費節減したまま、生産性向上を求めようとする愚」と指摘しています。

歴史的にみると、企業は集団で協業することによって、個人仕事では実現できない高い生産性と利潤を追求するために生まれたものだというのです。

それが、今「生産性上昇」が、個人のオペレーション任せになっている。これではうまくいくはずがないというのです。

Gerd AltmannによるPixabayからの画像

⑩経営者へ激しい批判

大企業の巨額の内部留保については、すでに広くよく知られています。

本書では中小企業も2013年ごろから年間のキャッシュ増加額が拡大してきて、「どこも金余り病」だと指摘しています。

その理由として「経費節減」の慣性力が組織全体に蔓延しやすいからだと主張しています。組織の習慣によるものだというのです。

その習慣の理由として、2000年代のデフレ期にはこれで成功したという経営者の「成功体験」を上げています。

⑪本書を読んで

日本の成長が30年にわたって低迷していることは、誰しもが目に見える事実なのですが、その理由と原因については、いまだに百家争鳴の状況です。

それぞれの専門家ごとに様々な違った理由が挙げられています。

10年前の2012年には、日銀の金融緩和が足りないからだと、政治家も一部の経済学者も大声で訴えていましたが、その後の黒田日銀の10年で、それは実証的に否定されました。

本書では、高齢化以外に、非正規雇用の増大と企業の教育投資の削減を、その理由として挙げています。

本書を読むと、個々のエピソードには、確かに説得力はそれなりにはあるのですが、理由はそれだけなのだろうかと、いま一つ胸にすとんと落ちないようにも思えます。

本書は、企業現場のミクロの事情を、経済全体の問題に昇華する作業がまだ荒いようにも感じられました。

しかし、いくつか興味深い視点もありました。

本書は興味深いですよ。ぜひ読むことをおすすめします

コロちゃんは、社会・経済・読書が好きなおじいさんです。

このブログはコロちゃんの完全な私見です。内容に間違いがあったらゴメンなさい。コロちゃんは豆腐メンタルですので、読んでお気に障りましたらご容赦お願いします(^_^.)

おしまい。

Jacques GAIMARDによるPixabayからの画像
PVアクセスランキング にほんブログ村

コメント

タイトルとURLをコピーしました