【読書考】「世界インフレの謎」(渡辺努 著 講談社現代新書)を読んで

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【読書考】「世界インフレの謎」(渡辺努 著 講談社現代新書)

本書では、各国のエコノミストの予想平均値を使い、世界のインフレが、ロシアのウクライナ侵攻から始まったのではなく、それ以前からすでに始まっていたと主張しています。

現在の世界的なインフレの原因が、パンデミックによる人々の「行動変容」にあるというのです。

すべての人々が同じ方向に動き出すことは、普通はあり得ません。必ず反対方向に動く人が一定程度存在して全体としてのバランスが取れます。

それがこのパンデミックではみなの動きが「同期」したというのです。これは事実なんだろうか?と驚きました。

そして各国を「恐怖心」が伝播したといいます。その恐怖心による人々の「行動変容」が対面型サービスの需要を低下させたとされています。

消費者の恐怖心は、対面型サービスの敬遠を通して、物価を下げる方向に作用しますが、労働者の恐怖心は、現場へ復帰しないなどの、物価を上げる方向に作用するというのです。

消費者の恐怖心は需要に影響を与えるのに対し、労働者の恐怖心は供給に影響を与えると考察しています。なるほど、納得の論理です。

パンデミック2年目のアメリカのインフレは、こうして起きていると著者は考えているようです。

「政策対応」の問題としては、政府も中央銀行も、需要を増やすツールはもっているのですが、供給は簡単には増やせないことだといいます。

では、日本についてはどう考察しているのでしょうか、気になりますよね。この考察はあらためて後段の別章で取り上げています。

次に、1970年代の各国の中央銀行とインフレの戦いの歴史を、わかりやすく説明しています。

インフレに対して、中央銀行が利上げで対処すると言う技術は、1970年代にインフレへの対処として発明されたものとは知りませんでした。思ったより歴史が浅いのですね。

その1970年代のインフレは、需要の増大に対するもので、現在のアメリカのインフレは供給サイド(労働力不足)が原因で全く正反対で、別物だというのです。

それは「現代の物価理論の盲点」で、アメリカFRBのパウエル議長も「現在起こっているのは経済の供給サイドの崩壊」と指摘しているそうです。

どの国も、パンデミックの影響で、人々の行動が「同期」により、一斉に「サービス需要」から「モノ需要」にシフトされているといいます。

それに労働と資本の産業間の移動が追いつかないのが、インフレの原因というのです。

モノを価格はすぐに上がりますが、サービス価格は急には下がらないためにインフレが加速するのだとも。

そして、脱グローバル化の動きです。「脱グローバル化は長期的に進行する供給ショック」だとも主張します。

以上の3つの変容、①消費者の行動変容②労働者の行動変容③企業の脱グローバル化をインフレの原因と解析しています。

また、なぜ、日本だけ世界と違って物価が上がらないかの答えですが、日本の物、サービスのうち約4割が上昇率ゼロ近辺にあるそうです。

日本の物価が上がらない理由は、4割の品目が0%だからというのです。これがボトムとなり、全体を引き下げているというのです。

1990年代後半以降、モノ価格、サービス価格、賃金のフラット化が進行し、その横ばいの状況が、企業も消費者も労働者もそれなりに居心地の良い状態と言えなくもない。

それが長く続いている理由のひとつだと分析しています。

本書は、その物価も賃金を上がらない理由に、ノルム(社会規範)を訴えますがこのような人々のメンタルが経済を規定しているとしたらば、ちょっと驚きます。

今後のあり得るシナリオとして本書では「スタグフレーション」と「慢性デフレからの脱却」をあげています。

著者は「何十年に一度という大事な選択が、私たちに突き付けられていることは間違いがありません」とも書いています。

私たちにとってより良い未来を見たいものだと思いました。本書は、読みやすくわかりやすく説明してくれています。とても良い本だと思いました。

本書を、ぜひ読むことをおすすめします。絶対興味深いですよ。

コロちゃんは、社会・経済・読書が好きなおじいさんです。

このブログはコロちゃんの完全な私見です。内容に間違いがあったらゴメンなさい。コロちゃんは豆腐メンタルですので、読んでお気に触りましたらご容赦お願いします(^_^.)

おしまい。


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