【読書考】「日本近代史」(坂野淳治 著 ちくま新書)を読んで

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【読書考】「日本近代史」(坂野淳治 著 ちくま新書)

凄い本です。何があったのかを教えてくれる歴史書は数多くありますが、おきた歴史的事実の意味を政治風景まで理解しやすくひもとく本として、本書は最高の本ではないだろうかと思えました。

本書は1857年(安政4年)から1937年(昭和12年)までの80年間を「改革期」「革命期」「建設期」「運用期」「再編期」「危機期」「崩壊期」の6段階に分けて考察しています。

そのどれもが単に事実の羅列に終わることなく、どれもが興味深い指摘と考察を繰り広げているのです。

「革命期」においては、次のように書いています。

「江戸城総攻撃が行われ、旗本から会津藩までのすべての幕府勢力が降伏したとすればどのような事態になったであろう。江戸落城で形の上では官軍の圧勝に終わったとしても、新政府の関東、東北支配は名ばかりになったのではなかろうか」

歴史のifですが、江戸城無血開城と、その結果としての奥羽列藩同盟との戦争が無かったら、戦後の支配体制の確立は出来なかったと考察しているのでしょう。実に冷徹な指摘であると思いました。

また、次のようにも書いています。

「旧幕勢力を温存させた上での王政復古と、それを内戦で壊滅させた上での王政復古の違いは説明を要さない」

要するに、戦争が無ければ体制の転換は不完全なものとなる。まさにその通りですね。「単純なる勝利」より「血を流した勝利」を求めていたんでしょう。

果たして西郷隆盛はそれを意図していたのかを考えると興味はつきません。

「建設の時代」を読むと、「征韓論分裂」や「西南戦争」を引き起こした明治政府内部が4つの「政治勢力」に分かれて「路線」をめぐる「政治抗争」を行っていたことがよくわかります。

これも現在とは違って、当時は、政治方針を大衆にわかりやすくアピールすることはないから、本書のような解説・考察がなければ当時の政治風景は理解できません。

「運用の時代」には、政策を実行する政府とその政策を承認する議会の関係性を、次のように書いています。

「議会を開設すれば、当時地租以外には直接国税はなかったのだから有権者の多数は農村地主になる・・・議会を開設したら議会の第一要求は自分たちだけが負担する地祖の軽減になるだろう」

政府が、金融収縮政策(松方デフレ)を実行したくても、もし議会が開設されていれば、議員は地主層から選ばれてくるから土地増税の法案が通るわけがないというのです。

「松方デフレと国会開設は両立しないのである」との著者の知見は、慧眼であると思いました。少なくともこのような内容に踏み込んだ歴史書は読んだことがありませんでした。

なるほど、当時の政治システムはこういう問題を抱えていたのかと感嘆しました。

「明治憲法」を伊藤博文が大変な情熱で導入したことは知ってはいましたが、その背景に「中央政府の正当性の根拠があまりにも薄弱だった」ことを書いています。

これも初めて知った知見で驚きました。後世から考えるより、当時の明治政府の基盤は盤石とは程遠いものだったようです。

国王権力が制限された「イギリス型憲法」と、その逆に国王権力が強い制度の「ドイツ型憲法」を見比べて、伊藤博文は、「ドイツ型憲法」の方が日本の国情に合っていると考えたのでしょう。

しかし、もしこの時に日本が「イギリス型議院内閣制」を選択していれば、その後の太平洋戦争の破綻の道とは違う道があったのだろうかと慨嘆する思いを持ちました。

本書は、「歴史的事実」のみではなく、「政治システム」「経済」まで網羅した説得力のある考察を行っています。

「再編の時代」の考察では、この時期の「人口4000万人のうち、わずか約50万人の農村地主が参政権を独占」とあります。なるほど、これでは議会で地祖の増税が通るわけがありません。

当時の政治の選択にはそれなりの理由があることが、やっと見えてきた思いを持ちました。

1930年代・昭和初期の「危機の時代」の風景はさらに凄みがあります。本書で引用した「宇垣一成」の日記の記載「現在では、政党-軍部-官僚-左傾-右傾・・・如何にも争いが小キザミとなり来たれり」には驚きます。

政治はやはり多くの政治勢力の大同団結によって安定するのでしょう。

「情勢の流動化」とは、「小キザミとなった政治勢力」がコントロール不能にバラバラに動き出すことだということがよくわかる記録です。

ここまで読んで、2012年の民主党政権の崩壊を思い浮かべました。

政治の動きは時代をこえて繰り返すのでしょうか。自民党政権も支持は人気次第です。それが上手くいかなければ「小キザミとなった政治勢力」の動きにより、一気に情勢は当時のように流動化するのでしょうか。

本書は、日本の歴史を新しい視点で見ることができる凄い本ですが、表題は実に陳腐です。これでは本棚にあってもなかなか手に取る気にはなりにくい。もう少し工夫はなかったのだろうかとも思いました。

本書を、ぜひ読むことをおすすめします。絶対興味深いですよ。

コロちゃんは、社会・経済・読書が好きなおじいさんです。

このブログはコロちゃんの完全な私見です。内容に間違いがあったらゴメンなさい。コロちゃんは豆腐メンタルですので、読んでお気に触りましたらご容赦お願いします(^_^.)

おしまい。

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