【読書考】「極権・習近平」を読んで

読書
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コロちゃんは、最近新聞で日本の周囲の情勢を伝える記事を読んでいますと、何かきな臭いというか、危うそうな雰囲気が漂ってきたように感じることが多いんです。

わずか数年前までは、そのようなことは全く考えもしなかったんですけど、ウクライナ危機は世界の見方を変えてしまいました。

そういう雰囲気の中で、中国の様子はとても気になっていたんですが、ちょうどこの本が出版されましたので読んでみました。

「極権・習近平」(中澤克二 日本経済新聞出版)

①著者は、日経新聞論説委員

著者は、日本経済新聞社の記者です。現在は論説委員ですから、だいぶ上の方のポストについている方と思われますが、経歴には中国総局長と書かれていますので、中国の専門家かと思います。

著者は、日経電子版に「激震・習近平ウオッチ」という署名記事を連載していますが、コロちゃんはいつもこの記事を興味深く読んでいるんです。

これらの記事には、中国の政治や経済について、かなり深い突っ込んだ考察が書かれていて、おそらく中国共産党内部の幹部から情報を得ていることがうかがわれるんです。

中国事情に詳しいといっても、中国共産党よりの発信ではありません。むしろ「タカ派」といってもよいくらい習近平には厳しい論説を毎回発信しています。

この新聞記者(論説委員ですが)が、最新の情勢の本を昨年12月に出したのですから、コロちゃんは興味津々で読みました。

②党大会の宮廷政治劇

昨年10月に中国共産党の5年に一度行われる「党大会」が開催されました。

そこで習近平が、それまでの慣例を破って、3期目の総書記に選出されたのですが、その場での前総書記「胡錦涛」が不可解な退場をしました。

その内幕を、本書はいろいろ推測を積み重ねて考察しています。中国共産党の最上部の内幕の推測ですから、確かめるすべはありません。

しかし、党大会最終日で選出されたの次期指導部の顔ぶれを見ると、李克強などの共産主義青年団派の「国際派・経済派」は、一人も残らず全員が排除されていました。

本書は、次期中国共産党指導部を、会社組織で例えれば、社長(習近平)の下の副社長・専務・常務ではない。取締役ですらない、いわば執行役員クラスだと断言しています。

習近平の「一強体制」が確立されたといっているのですね。

このような考察は、当然にして直接確かめることはできません。

それを過去の知見や端々にうかがえるエピソードを積み重ねて論証を試みているのです。

いわば「状況証拠」なのですが、さすがに著者の精緻な考察は説得力があります。

③習近平は勝ったのか

それでは、習近平は、3期目の総書記となり、次期指導部を子飼いの部下ですべて固めて万全なのかというと、本書は、そうではないといいます。

党大会で、習近平は指導部人事で完勝したかと思われましたが、この日発表された「改正共産党規約」には、習近平への忠誠を示す「二つの確立」というスローガンが見当たらなかったのです。

「習近平思想」「人民の領袖」という言葉も入っていない。

中国共産党内部の長老グループが「習近平崇拝だけは、決して許すな」と結束したからだと本書は主張しています。

中国共産党は、建国の英雄「毛沢東」の指導の下に、中国という国家を建設しました。

その晩年の文化大革命による破壊の教訓から、「鄧小平」は、個人崇拝を許さない「集団指導制」を内規として導入していたのです。

その「集団指導制」が、今回の党大会では習近平によってすべて骨抜きにされました。

しかし、「個人崇拝」を共産党規約に書き込んで完成させることは阻止されたと言うのです。

今後習近平が目指すのは、「鄧小平」を超えて建国の英雄「毛沢東」に並ぶことなのでしょう。

習近平は、今回は指導部人事で我が意を通したものの、まだまだ党内には反対派の「国際派」「経済派」が多数控えているということがうかがえる本書の記載となっています。

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④アリババ・学習塾で起きたこと

2020年10月、アリババの馬雲が上海で「優れたイノベーションは規制を恐れない」と演説をし、共産党政治トップ層の虎の尾を踏みました。

その後、2年余りにわたってアリババは当局からの制限をうけ続けています。

また、「ゲームは麻薬、学習塾は敵」とのスローガンのもと、民間主導で成長したいかなる業種も、共産党の厳格な管理下に置くことが求められました。

1年間で教育費負担を軽くすることは難しい。そこで出てきたのが「学習塾の非営利組織化」という劇薬です。

国家の規制を強めれば、経済成長は鈍化せざるを得ません。本書は、このような実例を引きつつ「中国全盛30年の終わり」と指摘しています。

本書は、今後の中国経済が構造的に減速せざるを得ないと強く示唆しています。

⑤中国共産党の右と左

コロちゃんは、長いこと中国には興味を持ちウオッチしてきました。中国共産党の歴史をみると、大きな流れでは、右派(経済派)と左派(イデオロギー重視派)が交互に顔を出します。

日本では、右派(国粋保守派)・左派(国際革新派)と分けられますから、中国は日本とは左右が逆になりますね。

中国の歴史をみると、毛沢東(イデオロギー重視派)が大躍進政策で失敗すると、劉少奇(経済派)が経済を立て直します。

文化大革命(イデオロギー重視派)が席巻し経済が落ち込むと、鄧小平(経済派)が出てきます。

現在の習近平の支持基盤は、毛左(毛沢東左派)を中心とした勢力なのでしょう。

経済派・国際派は今回の指導部人事では、総撤退の模様です。

しかし、この中国の歴史を見ていると、経済が悪化すると中国共産党は右派(経済派)が台頭してきています。

その動きを見ていると、まるで「振り子」のようにも見えます。

今後も同じことを繰り返すのでしょうか。今後の中国は、政治だけではなく、経済の動きにも注目したいと思います。

⑥日本EEZへのミサイル打ち込み

2022年8月のアメリカのペロシ下院議長の台湾訪問時のことです。

中国は日本のEEZ(排他的経済水域)にミサイル5発を撃ち込んで、日本を威嚇してきました。

本書は、その詳細な内容を分析し、軍部の作成した作戦案に①強硬案と②妥協案があり、習近平自身が①強硬案を自ら選択してミサイルを撃ち込んだと主張しています。

本書は、このように中国の軍事と外交が、どのような思考法で進められているかを推測して積み上げているのです。

読むと「なるほど」と思わずうなずく気持ちになりますが、決して事実かどうかの証明はできないものとも思いました。

もし習近平が、現在の情勢下で日本を意識して威嚇したとすると、その意図は何なのでしょうか。いろいろ想像すると不安も湧いてきます。

⑦2027年党大会で習近平は終身の地位を望むか

2022年の党大会で、習近平指導部は全員を部下で固める体制を構築しましたが、「鄧小平越え」「党規約への書き込み」には至りませんでした。

しかし、もし台湾の回収が実現したならば、次期2027年党大会での「終身の地位」「人民の領袖」の地位を習近平は勝ち取ることができるでしょう。

建国の英雄「毛沢東」に並ぶことができるのです。

そう考えると、台湾海峡の紛争が25、26、27年に起こりかねないと、本書は「危うい時代の到来である」と警鐘を鳴らしています。

⑧気になる日本の動き

本書での懸念と連動しているわけではないかもしれないのですが、日本でもいくつかの動きが出てきています。

「防衛費をGDP2%へ倍増」

2022年の防衛費はGDPの1.07%の5.2兆円ほどです。それを27年度には一気に8.9兆円ほどに増やすとされています。あまりにも急激すぎて、その背景を考えてしまいます。

「安保三文書」

2022年12月に、政府は「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛整備計画」の安保三文書を閣議決定しました。

この決定が、タカ派と言われる安部前総理によってなされたならば不思議ではないのですが、ハト派と言われる岸田総理によってまとめられたことに、ちょっと違和感を持ちます。

よほど急いで決定しなければならない事情があったのではないかと。

このあたりの「不安感」については、以前このブログに書きましたので、興味のある方は下記のリンクからお読みください。

【社会考】最近感じる「ぼんやりした不安」

⑨気になるアメリカの動き

「アメリカ軍、フィリピンで基地使用権を拡大」

2月2日の報道です。アメリカ軍がフィリピン南部で新たに4カ所の軍事基地使用権を獲得したと報じられました。

台湾に近い島のカガヤン、サンバレス、イサベラとパラワンの4カ所と発表されています。

フィリピンでアメリカ軍は、これまで5カ所の軍事基地を使用できるとされていましたから、合計9カ所となるのでしょう。これは何かの準備なのでしょうか。

「紛争シュミレーション」

先日、アメリカのシンクタンク「戦略国際問題研究所(CSIS)」が、中国人民解放軍が台湾への侵攻を図ると想定した机上演習(ウオーゲーム)の結果を公表しました。

その結果では、3回の演習のうち2回では、中国側が台湾の主要都市を制圧できないまま「敗北」との判定。

そして、残る1回では南部・台南の港を一時制圧したが、米軍の空爆で港は使用不能となり「こう着状態だが中国に不利」と判定されたそうです。

また、自衛隊は中国側の攻撃で100機以上の航空機や20隻以上の艦船を損失し、米軍も毎回2隻の空母が撃沈されたほか、大きな損害を受けたとあります。

アメリカは「軍事」の国ですから、このようなシュミレーションは、常に行われているのではないかと思います。

むしろ、今の時期にこの結果を大きく報じられることに意図を感じるのは考えすぎなのでしょうか。

⑩日本は、戦後80年でまた・・・

本書「極権・習近平」は決して戦争を予言したり予測したりはしていません。

しかし「中国全盛30年の終わり」と副題をつけている以上、今後の何らかの「混乱」を予想しているのでしょう。

本書の「あとがき」には、党大会時の机の上にある蓋付き茶碗が習近平の場所にだけ二つ置いてある違和感について書いています。

何かのメッセージなのか、それとも特別仕様なのか。著者のその筆致には嫌悪感が漂っているようにみえました。

理解できないものに対する不安なのかもしれません。中国共産党には「説明責任」という言葉はありません。

わからないものをわかろうとして取材し、考察し、推測し、記事にする。

その苦渋が本書からは伝わってきますが、中国「巨竜」動きは、日本に大きく響きます。

コロちゃんは、戦争にはもちろん拒否感しかありませんから、この中国の動向は今後も注意深く見続けていきたいと思います。

本書の考察にすべて賛同するわけではなかったのですが、興味深い内容でした。

コロちゃんは、社会・経済・読書が好きなおじいさんです。

このブログはコロちゃんの完全な私見です。内容に間違いがあったらゴメンなさい。コロちゃんは豆腐メンタルですので、読んでお気に障りましたらご容赦お願いします(^_^.)

おしまい。

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