コロちゃんは、古人類学の本を読むのが好きです。1990年代に立花隆の「サル学」以来、ずーっとそのジャンルの本が出れば、だいたい読んできました。
今日は、どんどん進んでいるDNA考古学の専門家が一般向けにやさしく書いた本ということで、本書を手に取ってみました。
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1.古代DNAを追う
皆さん、「古代DNA」という言葉をご存じでしょうか。
コロちゃんは、2000年ごろは、もう古人類学の本を読んでいたので、名前だけは知ってはいました。
しかし、あの頃は、まだまだ確証が得られないらしくて、「・・・示唆される」とか、「…も考えられる」というような表示が多かった記憶があります。
それが、時が過ぎるにつれて、どんどん表現が「・・・である」とかの、断言調になってきていたのです。
この学問の進展の速さには驚きます。DNAのごく一部がわかったかと思うと、10年もしないうちに、ヒトの全DNAが解明されてしまうのですから。
当初、兆円単位の費用が掛かったヒトのDNA解析も、今では15万円程度で、できるようになっていると聞きます。
これらの研究がノーベル賞を受賞するのも、当然だと思いました。
その、日進月歩の速さで進化してきたDNA考古学の現在地点を知ることができると思って、コロちゃんは、いそいそと本書を手に取りました。
2.「古代ゲノムから見たサピエンス全史」(太田博樹 吉川弘文館 2023年)
本書は、その冒頭を、カルフォルニア大学バークレー校のアラン・C・ウイルソンの、絶滅した動物「クアッガ」のはく製のDNAの回収から始めています。
彼の論文の発表は、1984年のことでした。その頃はまだ、誰も生物の遺物にDNAが残っていることさえわかっていなかったのだと言います。
ここから、化石なしで、進化を論じる学問が誕生したのだというのです。
この黎明期の冒頭から分かるように、本書は、DNA考古学の歴史を、わかりやすく系統的に教えてくれています。
本書は次に、スヴァンテ・ペーボが、エジプトのミイラからDNAをクローニングした研究も取り上げています。しかし、この発表は、あとになってから、間違いであったことが分かったようです。
DNAの解析には「コンタミネーション」という、外部からの混入が常につきまとうという研究の難点が書かれています。なかなか、簡単には進まない技術だったようです。
このスヴァンテ・ペーボは、後にノーベル化学賞をとられた学者です。
コロちゃんは、この方の書かれた本「ネアンデルタール人は私たちと交配した」を読んで、このブログの【読書考】で取り上げています。
その【読書考】を、お読みになりたい方は、下記のリンクをクリックお願いします。
3.「PCR法」というDNA検索ツール
DNA考古学を語るには、PCR法の紹介は欠かせません。これは1993年にノーベル化学賞を受賞したキャリー・マリスが開発した技術です。
このPCR法を使えば、理論上は、たとえDNAが一個しかなくとも無限に増やすことができるのです。
本書は、それをどのように使うのかの内容を具体的に書いています。その内容は、よくこんな方法を思いついてものだと感心してしまいます。
試験管に、DNAの材料と緩衝溶液とDNA合成酵素を入れる。その後95度まで温度を上げる。そして50~65度に下げる、そして72度に上げる。
続いて、また最初のステップ95度まで温度を上げる。そして50~65度に下げる、そして72度に上げることを繰り返す。
そうすると、DNAは倍々に増殖するというのです。
コロちゃんは、なんとも、不思議なことではないかと思いました。よくこんな手法を開発できたものです。これならノーベル賞受賞も当然ですよね。
えっ、この説明じゃ、なにしたんかわからないって? そりゃそうですよ、コロちゃんだってわかんないで書いているんだもん。
詳しく手順をお知りになりたい方は、以下の引用からリンクをクリックして下さい。すっごく詳しく書いてありますよ。
「ポリメラーゼ連鎖反応」(PCR法)より
ポリメラーゼ連鎖反応(ポリメラーゼれんさはんのう、英語: polymerase chain reaction)とは、DNAサンプルの特定領域を数百万〜数十億倍に増幅させる反応または技術。」
「英語表記の頭文字を取ってPCR法、あるいは単純にPCRと呼ばれ、「ポリメラーゼ・チェーン・リアクション」と英語読みされる場合もある。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9D%E3%83%AA%E3%83%A1%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%82%BC%E9%80%A3%E9%8E%96%E5%8F%8D%E5%BF%9C
ウィキペディア (Wikipedia): フリー百科事典:「ポリメラーゼ連鎖反応」最終更新 最終更新 2023年4月1日 (土) 10:55
4.著者は、弥生人の歯を砕く
著者は、古代DNA分析の世界的流行の兆しの中、弥生人のDNAの研究を進めようと、発掘された「歯」を砕いて、そこからDNAを取り出そうと研究を進めます。
ところが、古代人のDNAとは、そんなに簡単に取り出せるようなものではないのですね。著者が試行錯誤する様子が書かれています。
北部九州の詫田西分貝塚遺跡での、縄文人っぽい特徴を持つ人骨と、渡来人っぽい特徴を持つ人骨の関係性を、DNAを調べることで明らかにできるかもしれないというのです。
この遺跡には、埋葬形式が、甕棺墓と土壙墓の二つに分かれていたそうです。
著者は、研究の結果、判明したDNAから、甕棺に埋葬された人と、土壙墓に埋葬された人は、別の出自を持つ可能性が高いと考えられるとしています。
この研究が、著者の最初の「論文出版」となったそうです。
なるほど、このようにして、日本の古人類史の研究が進められるのかと、よくわかる内容でした。
しかし、甕棺墓と土壙墓の二つが「別の出自」だったとすると、支配者一族が甕棺墓で、従属民が土壙墓だったのかな、などと、コロちゃんは想像してしまいました。
何となく、細面の渡来人が支配者一族で甕棺墓埋葬で、ソース顔の従属民が土壙墓の風景が、コロちゃんの頭に浮かんだんです。もちろん想像ですけど。
5.サピエンス全史
サピエンスの誕生をめぐっては、1990年代までに、二つの仮説があり、論争を戦わせていました。
「多地域連続新仮説」と「アフリカ単一起源説」です。
「多地域連続進化説」は、ホモ・エレクトスの出アフリカ以降、それぞれの地域でサピエンスに進化したという説です。
この仮説では、北京原人はそのままその地で、現代の東アジア人となります。
もう一つの仮説は「アフリカ単一起源説」です。
この仮説では、いったんユーラシア大陸に広がったエレクトスは絶滅し、新たにアフリカ大陸で生まれたサピエンスが地球全体に広がったというものです。
コロちゃんが、1990年代に読んだ本では、この2説が真っ向からぶつかって論争を戦わせていました。
その論争が、今では決着がついて、後者の「アフリカ単一起源説」がDNA考古学によって確立されるのですが、本書は、その決着までの過程を、わかりやすく書いているのです。
その論争と決着の本書の過程は、コロちゃんがここで開陳できるような内容ではありません。(コロちゃんは、読んでもアカデミックな雰囲気だけしかわかりませんでした)
6.サピエンスとネアンデルタールとデニソワ人
デニソワ人とは、アルタイ山脈にある洞窟で見つけられた指骨です。それからDNAが抽出され、サピエンスでもネアンデルタールでもない配列だったことがわかり、大騒ぎになりました。
同時代に3種のヒトが生きていたのです。
本書は、この話題をDNA解析の説明とともに書いています。そして、それらの交雑の証拠がDNAにはっきり残っていることが証明されたのです。
なんとも驚きですね。私たちの身体の中の遺伝情報に、ネアンデルタール由来の遺伝子がとデニソワ人由来の遺伝子が残っているとは、コロちゃんも少し驚きました。
ただ、このような知見を得ると、人類はさかのぼれば、ごく少ない集団から分岐してきたことがわかりますね。それも何度も交雑しながらです。
このような研究結果を読んでいると、現在の国境とか人種とかが、いかに意味がないものなのかが、わかるような気がしますね。
7.縄文人ゲノム解読
ドイツのライプチヒから、アメリカのイエール大学で研究を進めていた著者は、2005年に日本へ帰ってきて、縄文人のゲノム解読に取り組みます。
縄文人の研究には、先人がいます。本書は、その先人の研究を詳細にたどっています。
しかし、コロちゃんの興味があったところは、日本人がどこから来たのかということでした。
まず、1991年に発表された植原和郎の「二重構造モデル」があります。本書ではその内容を説明してくれています。
これは、以下の四つの骨子からできています。
①「縄文人の起源は、旧石器時代の東南アジア人から、新石器時代の縄文人と北東アジア人が分岐した」
②「アイヌと琉球人は、縄文人の直接の子孫である」
③「約2000年前に、朝鮮半島から大量に人が渡来した」
④「本州では、縄文人と渡来人の混血が進んだが、北海道と沖縄では、縄文人の遺伝的影響が色濃く残った」
著者は、この仮説をゲノム研究を通して検証しようとしたのです。
なんとも、夢のある研究ではないですか、コロちゃんは、この私たちのルーツ探しを興味を持って見つめています。
まだ研究は、はっきり結果が出ていないようですが、化石の研究ではわからなかったこのような内容が、DNAを調べることで分かるかもしれないとは、大きな進歩だと思います。
8.縄文人の起源をめぐる謎
本書によると、日本列島の石器は3万8千年前までさかのぼるり、その石器文化は北東アジアと深く関連するそうです。
また、縄文人の直接の子孫と考えられるアイヌと琉球人の「タンパク質多型」は、東南アジア人と遺伝的近縁性を示さなかったとあります。
そうすると、縄文人の祖先は、東南アジア起源ではあるが、北東アジア経由で日本列島に入ってきたのかと考えられるとも言われているそうです。
その検証を、多くのデータから行なっている経過が書かれていますが、いまだはっきりとした結果は出ていない模様です。
「日本列島にどのルートからホモ・サピエンスが入ったか?」
「縄文人は、後期旧石器時代の人々の直接の子孫なのか?」
これらは、今後検証すべき課題であると、著者は語っています。これも、いずれは「なぞは解けた!」となるのでしょうか。これも楽しみですね。
9.古代ゲノム学の多くの研究
上記のような研究以外にも、「デニソワ人の姿を復元する」とか「ネアンデルタール人の脳を復元する」とかの、ゲノムを使った様々な可能性を、本書では詳細に描いています。
いまだ、検証までは程遠いそうですから、結果が出るのはまだだいぶ先にはなりそうです。
そして、著者が現在取り組んでいるプロジェクトとして「縄文人iPS細胞の試み」を挙げています。
現在日本に住んでいる人のゲノム中、10~20%が縄文人由来だそうです。
これをどのようにするのかコロちゃんには、全く想像もつきませんが、多くの驚くような研究が、今も進めらているようです。
本書は、目をむくような新発見があったというような本ではありません。
しかし、古代ゲノム研究の現段階を、よく知ることができる本だと思います。
コロちゃんは、古人類学研究には「夢」があると思います。
「人はどこからきて、どこへ行くのか」。このテーマを考えていると、ヒトは所詮はサルなのだと思うのです。
そうすれば、「差別」や「格差」が、人間が勝手に作り出した、実にばかばかしいものなのかを痛感してしまうのです。
コロちゃんは、今後もこれらの「古人類学」の本をチェックして、読み続けたいと思います。新しい発見があるかどうか、とても楽しみですよ。
本書は興味深いですよ。ぜひ読むことをおすすめします。
コロちゃんは、社会・経済・読書が好きなおじいさんです。
このブログはコロちゃんの完全な私見です。内容に間違いがあったらゴメンなさい。コロちゃんは豆腐メンタルですので、読んでお気に障りましたらご容赦お願いします(^_^.)
おしまい。
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