昨年2022年2月14日に、ロシアがウクライナに進行して戦争がはじまりました。
コロちゃんは、皆さんと同じく大きなショックを受けました。まさか、ホントに戦争が始まるとは思っていなかったんですよ。
そして、1年以上経っても、まだ戦争は続いています。その戦争がどう終わるのか、どう終わらせることができるかを知りたくて、本書を読んでみました。
1.「ウクライナ戦争をどう終わらせるか」(東大作 岩波新書 2023年)
コロちゃんのウクライナ戦争への思い
コロちゃんは、昨年の夏ごろには年内にウクライナ戦争は終結すると思っていたんです。それもロシアに有利な条件で。
なぜかというと、両国の大きさです。ロシアとウクライナでは3倍以上の国力の差があります。
人口
ロシア 1億6400万人
ウクライナ 4100万人
GDP
ロシア 1.7兆㌦
ウクライナ 2001億㌦
兵力
ロシア 85万人
ウクライナ 20万人
軍事費
ロシア 458億㌦
ウクライナ 42.7億㌦
これだけの国力差があると、さすがに国家の体力からして、ウクライナは譲歩を強いられると考えていたんです。
ところが、アメリカを始めとした、EU諸国の全力の支援です。
ドイツの調査研究機関「キール世界経済研究所」によると、各国の支援総額は以下のとおりだそうです。
「支援総額783億ユーロ(約11兆円)で、国別では米国が427億ユーロ(55%)、英国48億ユーロ(66%)、ドイツ33億ユーロ(4%)などと続いた。日本は6億ユーロ(0.7%)で7位」
この西側の膨大な支援がウクライナの継戦を支えているわけです。
当然、ウクライナに攻め入ったロシアは非難されなければなりませんが、この戦争が長引けば長引くほど、双方の命は失われていきます。それは戦闘員・非戦闘員とを選ばずに増えていくでしょう。
そして、戦後の荒廃です。
インフラは援助でいずれ回復できるかもしれませんが、多くの戦争の死者を前にして、ウクライナ人とロシア人の間の感情は、長い間わだかまりを残すでしょう。
日本は、もう戦後80年以上たっているのに、隣国と今だに軋轢が残っているのですから、ウクライナ戦争の現在と今後を思うと、本当に心が痛みます。
2.想定される戦争終結シナリオ
やっと、本書の紹介が始まります。
本書は、ウクライナ戦争の想定される終結シナリオとして、次の5つを紹介しています。
①②③は、ニューヨークタイムス紙のコラムニストのトーマス・フリードマン氏が語ったシナリオだそうです。
①破滅的なシナリオ
ウクライナに傀儡政権を樹立することのできない追い詰められたプーチン大統領が、何をするかわからない行動にでる「戦慄すべき」シナリオです。
核兵器を伴う世界大戦を示唆しています。21世紀の現在に、そんなことがありうるのでしょうか。
非常に怖い話ですが、死者の数も数桁上がるでしょうし、世界が破滅とまではいかなくとも、それに近い惨状が予想されます。
どちらの政治家も、なんとしても、それを回避してくれなければ困ります。
②汚い妥協
停戦およびロシア軍の撤退と引き換えに、ウクライナがNATOに加盟しないことを約束。さらにウクライナ東部のドンバス地方のロシア編入を認め、西側諸国のロシア制裁解除をするというシナリオ。
このシナリオは、成立する可能性が低いとしています。
プーチン大統領は、ウクライナを傘下に置く目標を達成できず、ウクライナも領土の割譲を認めるわけにはいかないからだとしています。
最後には、双方が満足する妥協点の探り合いになるのでしょうが、その着地点までは相当時間がかかりそうです。
小見出しの「汚い妥協」という言葉は、ニューヨークタイムス紙のコラムニストのトーマス・フリードマン氏が語った言葉だそうです。
③プーチン体制の崩壊
ロシアの政権内部からのクーデターを含め、ロシアの人々がプーチンを大統領の座から、追い出すというシナリオです。
西側にとって最善のシナリオです。
しかし、このシナリオはのところ現実性がないと思いますね。ロシアの世論調査でも、プーチンの支持率は、今でも8割前後で推移しています。
この支持率を見ると、ロシア国内では、プーチン大統領の主張は一定程度以上に受け入れられていると判断せざるを得ないと思います。
④西側諸国対ロシア・中国圏で経済圏が次第に分離
ここからの④⑤の二つのシナリオは、著者の提起したものです。
中国がロシアの原油・天然ガスを買い続けた場合、中国への批判が強まる。
中国が、原油・天然ガスを買い支えることへの批判から、西側諸国とロシア・中国圏で次第に経済圏が分離するというシナリオです。
しかし、著者も、今のところ、この第4のシナリオに突入することは、中国・アメリカともに避けようとしていると判断しています。
コロちゃんもそう思います。原油は、中国だけではなく、インドもロシア産の輸入を大幅に拡大していますからね。
インドの貿易統計によるとロシアからの原油輸入は、2021年の日量9万バレルから、2022年4月には日量39万バレルに大幅に増加しています。
ロシア原油を買っているというだけで、中国と経済圏を完全に分離するという決断はできないと思います。
経済圏の分離が進められるとしても、限定的になるのではないでしょうか。
⑤中国とトルコが働きかけ、ロシア軍が停戦・撤収
ロシアの経済的な命綱を握る中国と、友好関係にあるトルコが交渉役となるシナリオです。
ロシア軍が停戦・撤収し、ウクライナ側はNATOに入ることを目指さず、他の形の安全保障体制に入り、そのことでプーチン大統領の面子を保ちつつ軍を撤収する。
著者は、これも一つのシナリオとしています。
事実、中国は2023年2月24日に、ロシアとウクライナ双方に対し、直接対話の再開や停戦、和平交渉の開始を呼びかける文書を発表しました。
しかし、アメリカが3月17日に、「中国がロシアを利する形でウクライナとの停戦を提案している」として「深い懸念」を表明するなど、現段階ではこの仲裁提案の実現は難しいようですね。
少なくとも、両国に強い影響力のあるアメリカと中国の双方が受け入れられる提案ではないと、妥協は難しいのではないかと思われますね。
どのシナリオも、実現には難しい問題を抱えていますが、
①「破滅的崩壊」はとんでもないシナリオですし、
③「プーチン体制の崩壊」は今のところ期待はできないでしょう。
④「経済圏の分離」は、日本経済にも大きな打撃が予想され、その程度によっては世界的経済混乱まで進む可能性があります。これもとんでもないシナリオですね。
そうすると、
⑤「中国・トルコの仲裁」で
②「妥協」を探るシナリオが現実的なのでしょうか。
これらの戦争終結への進行について、本書の考察はまだまだ続きます。
3.これまでの戦争はどう終わっていたのか
著者は、過去の戦争を考えるときに、戦争というものは「軍事的勝利」と「交渉による和平合意」のどちらかしかないと言い切ります。
そして、そうだとすると、核大国であるロシアに対して全面的な「軍事的勝利」というものは存在するのかと語ります。
6000発の核兵器を持つロシアが、敗戦を認め撤退することがあり得るのかと問うのです。
しかし、同時にそれが核大国が戦争に勝利するといったものでは無いと言います。
むしろ第二次世界大戦以後に大国が小国に進行して、傀儡政権をつくる試みはほとんど失敗して、大国が撤収することで戦争が終結したケースがほとんどだというのです。
著者は以下の戦争を取り上げて論拠としています。
「アメリカのベトナム戦争」
「ソ連のアフガン戦争」
「アメリカのイラク戦争」
「アメリカのアフガン戦争」
これらの戦争は、すべて大国が小国に軍事侵攻し、最後は交渉により撤退しているのです。
ここまで読んで、コロちゃんは正にそうだなとうなずきました。
このウクライナ戦争は、おそらく、どちらも「完全な勝利」はできないのでしょう。
しかし、ウクライナ側にしてみれば、ロシアを撤退に追い込めば実質的な「勝利」なのです。
その「撤退」をどこまでさせるのかが、これからの戦場の勝敗で決まってくるのでしょう。
4.3月29日の和平調停
ウクライナ戦争は、昨年2022年2月24日のロシア軍の軍事侵攻から始まりました。
その後の3月29日に、トルコの仲介のもと、トルコのイスタンブールでウクライナとロシアの交渉団が交渉を行ないました。
後から振り返れば、この時がロシアとウクライナが停戦と終戦に向けて最も近づいた日であったと本書は書いています。
その時の「ウクライナ側の提案」を、ちょっと長いですが以下にご紹介します。
●新たな安全保障の枠組みをつくり、そこに国連安保理の常任理事国である米国・イギリス・フランス・中国・ロシア、さらに、トルコ・ドイツ・カナダ・イタリア・ポーランド・イスラエルなどが、保証国として参加する。保証国は、ウクライナが攻撃された時は、ウクライナの軍事支援を行う。
●これが実現したら、ウクライナは(NATOも含め)軍事同盟にも参加せず、外国の軍事基地も置かず、永久的な中立国になり、かつ核兵器も保有しない。
●クリミア半島については、15年かけてロシアとウクライナで別途協議する。この間ロシアとウクライナは、軍事的な手段でクリミア問題を解決しようとしない。
●(東部の)ドネツク州と州の一部の地域(親ロシア派が実効支配していた地域)についての協議も、別途行う。
このようにウクライナ側は、3月29日の交渉時には、ロシア側が2月24日の進行を始める前のラインまでの撤退を前提に、極めて現実的な提案をしていたのだというのです。
それが、キーウ周辺でのブチャでの民間人殺害が明らかになることにより、停戦交渉はとん挫しました。
著者は、アメリカの複数の米国高官の話として「2022年4月の段階で、ロシア軍は2月24日の侵攻前のラインまで撤退し、クリミアとドンバスの一部は実効支配を続ける。ウクライナ側はNATO加盟を求めず、他の国々からの安全保障を享受すると」いう内容だったと書いています。
この停戦案は、現地交渉団レベルでは一旦は合意できていたというのです。
しかし、今後いずれは停戦交渉が行われるでしょうから、この案が、内容は変わるかもしれませんが、再び浮上してくることは十分に考えられますね。
この話は知られていませんでした。コロちゃんは、本書で初めて知りました。
この案を知ることができただけで、本書を読んだ価値は高いと感じました。
5.戦争の継続とともに死者も増える
ここまで、本書を読んで、昨年の停戦交渉がとん挫した原因である、キーウ周辺でのブチャでの民間人殺害のことを思い起こしました。
あまりにもひどい惨劇です。
ウクライナによれば、ブチャを含むキーウ近郊の複数の地域で410人の犠牲者が発見されたとされています。
コロちゃんは、この事件を最初に聞いたときに、第二次世界大戦時に起きた「カティンの森」事件がすぐに頭に浮かびました。
「カティンの森事件」とは以下の事件です。
「カティンの森事件」
「カティンの森事件は、第二次世界大戦中にソビエト連邦のスモンレンスク近郊に位置するカティンの森で約22,000人のポーランド軍将校、国境警備退院、警官、一般官吏、聖職者が、ソビエト内務人民委員部(NKVD)によって虐殺された事件。「カティンの森の虐殺」などとも表記する」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%81%AE%E6%A3%AE%E4%BA%8B%E4%BB%B6
ウィキペディア (Wikipedia): フリー百科事典:「カティンの森事件」最終更新 2023年3月7日 (火) 23:15
コロちゃんは、以前に「ヒトラーの戦い」(児島襄 小学館 1992年)を読んで、その事件の詳細を憶えていたのでした。
戦争だからというには、あまりにも酷い事件だとの感想を抱いていたのです。
今回もロシアは関与を認めていませんが、今回の事件も、ロシア軍が行ったことは明白です。
このような民間人の被害が起こることは、絶対に許せないものです。
ソ連軍とロシア軍の違いはあれど、同じ国の軍隊です。
「歴史は繰り返す」とみるべきなのか、それとも、中国大陸での日本軍の虐殺事件や、ベトナム戦争でのソンミ村の虐殺事件などを考えると、どこの国でも戦争には虐殺事件は付き物なのか、深く考えてしまいました。
下記が、ベトナム戦争時にアメリカ軍が起こした虐殺事件です。
「ソンミ村虐殺事件」
「1968年に南ベトナムに展開するアメリカ陸軍のうち第23歩兵師団第11軽歩兵旅団・バーカー機動部隊隷下、第20歩兵連隊第1大隊C中隊のウィリアム・カリー中尉率いる第1小隊が、南ベトナム・クアンガイ省ソンティン県にあるソンミ村のミライ集落を襲撃し、無抵抗の村民504人(男性149人、妊婦を含む女性183人、乳幼児を含む子供173人)を無差別射撃などで虐殺した。集落は壊滅状態となり、生存者はわずか3人だった」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BD%E3%83%B3%E3%83%9F%E6%9D%91%E8%99%90%E6%AE%BA%E4%BA%8B%E4%BB%B6
ウィキペディア (Wikipedia): フリー百科事典:「ソンミ村虐殺事件」最終更新 2022年12月4日 (日) 07:10
戦争は、多くの犠牲を出すだけでなく、後の時代にも大きな傷を残します。
ここで、本書の著者が上記で例示した「大国が小国に進行した戦争の死者数」を、コロちゃんは調べてみることにしました。
戦争の犠牲者数については、調査主体や調査時期によって数字が異なりますが、大体の概要をつかめるかと思います。
「アメリカのベトナム戦争」(1965-1973年)
死者数
アメリカ 5.8万人
ベトナム 600万人
「ソ連のアフガン戦争(1978-1989年)
死者数
ソビエト 1.5万人
アフガニスタン 150万人
「アメリカのアフガン戦争」(2001-2021年)
死者数
アメリカ 2460人
アフガニスタン 17万人
「アメリカのイラク戦争」(2003年3月ー5月)
死者数
アメリカ 368人
イラク 3.5万人
この膨大な戦死者の数を見るだけでも、心が痛みます。
戦争が長引くほど、死者の数は増え続けます。妥協でも軟弱でもいいじゃないですか、コロちゃんは、できるだけ早い停戦と終戦を望みます。
6.経済制裁・戦争犯罪・難民支援
本書は、後段で「経済制裁」や「領土問題」「難民支援」「国際貢献」など多岐にわたる課題を取り上げて、諸課題の解決への道を検討しています。
それぞれが、いろいろ考慮すべき点が満載の事項ばかりで参考にはなりましたが、コロちゃんが一番興味を持って読んだところは、上記で紹介した「戦争の終結」についてでした。
世界を見渡せば、残念ながら戦争が無くなることはありません。
コロちゃんが生きてきた時代ですら、べトナム戦争、イラク戦争、アフガニスタン戦争と、つい最近まで戦争が次々と続いて起きていたんですから。
そして、今回のまさかのウクライナ戦争の勃発です。
この戦争を知ることが、次の戦争を抑止することにつながることを期待して、コロちゃんは、多くの本をこれからも読みたいと思います。
一日でも早く、ウクライナ戦争が終結することを望みます。
7.中国の仲裁
昨日3月22日に、中国の習近平国家主席がモスクワでプーチン大統領と会談をして、習主席は2月に提案した「仲裁案」を説明し、プーチン氏が前向きに「評価」したと報じられました。
今後ウクライナでは、おそらくアメリカ・EUから供与された戦車や兵器を動員した大攻勢があると思いますが、その後はウクライナ側の大幅なロシア占領地の奪還が見据えられます。
そうなれば、戦況しだいで停戦交渉が始まるかもしれません。
その時には、この中国の「仲裁案」や、上記でありました「2022年3月29日の和平提案」が、交渉の糸口となるのではないでしょうか。
いずれにしろ、このウクライナ戦争は「現代の悲劇」です。一刻も早い停戦・終戦をコロちゃんは望みます。
このウクライナ戦争についての、ウクライナ・ロシア双方の考え方を知ることができる本書は、興味深いですよ。ぜひ読むことをおすすめします。
コロちゃんは、社会・経済・読書が好きなおじいさんです。
このブログはコロちゃんの完全な私見です。内容に間違いがあったらゴメンなさい。コロちゃんは豆腐メンタルですので、読んでお気に障りましたらご容赦お願いします(^_^.)
おしまい。
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