【読書考】「サピエンス減少」を読んで

読書

おはようございます。コロちゃんは、最近よく「少子化対策」について、このブログでポチポチ書いていますが、いつもちょっと不思議だなと思っていたことがあるんです。

それは、皆さん「少子化」を憂いていますけど、じゃあ、その対策の「目標」をハッキリ決めたり、将来の先行きの見通しを語ったり、あんまりされていないのは、どうしてかなと思っていたんです。

やはり、「少子化対策」を語るには、将来の人口がどうなるのかを見るべきですよね。よく「人口予測は必ず当たる予測だ」と言われているんですから。

今回コロちゃんは、人口学者の本を読んでみました。

1.「サピエンス減少」(原 俊彦 岩波書店 2023年)

本書は、表題の通り「人口減少」問題を扱っていますが、序文で、「不安や絶望を煽ったり、根拠のない楽観論を展開」するものではないと語っています。

本書の目的は「今起きていることの人類史的な意味を正しく理解する」ことで「未来に希望を持ち生き続けること」を願うとされています。

その上で、本書の結論を、以下のように記しています。

「世界人口は、今後も増加を続けるが遅くとも今世紀後半の中頃には減少に入り、世界全体が、現在の日本と同じような少子高齢・人口減少社会に移行していく」

本書は、人口学的には、既に「人口問題」の結論は出ているのだというのです。

コロちゃんは、日本の「少子高齢化」の議論を見て、いろいろ調べて、日本の「人口減少」は、もう決まってしまっていると思っていました。

ですから、日本においては、上記の結論は不思議はないと思っていましたが、世界もまた、時間差はあるものの、いずれ「少子高齢化」が訪れるとの本書の結論には驚きました。

2.「人口減少」は歴史的な人口転換の帰結

本書は、現在の日本が経験している「人口減少」は、「先進国を中心に世界の多くの国々も遅かれ早かれ同じ道を歩むと考えても良い」と語ります。

「人口減少」は、日本だけの特殊な事情によるものではなく、前代未聞の「国難」といった国粋主義的な排他的なとらえ方をするべきではないというのです。

そして、その「人口減少」は、基本的には、人類が進歩し豊かになり、平均寿命が延び、長寿化する一方、結婚・出産あるいは移動に関わる個人の選択の自由が拡大してきた結果によるものだというのです。

要するに、本書は、今、日本で起きている「少子高齢化」は、今後世界中で起こることの先駆けなだけで、人口学的に見ると、不可避の出来事だとバッサリと言い切っているのです。

3.「日本の人口」と「世界の人口」の推移

日本の人口に目を向ければ、2008年の1億2808万4千人をピークに、人口減少期に入り、2020年には1億2614万6千人と、5年前の前回調査から94万9千人減少しています。

今後2100年には、7400万人にまで減少するとされています。

一方、世界の人口は、2022年に79億7511万人と推計されています。

今後の世界人口の推計では、2086年の104億3093万人をピークに減少に転じるとされています。

この後に、詳細な分析が続くのですが、今後2100年までに世界で増加する23億人強の内訳を見ると、最も増加するのは「65歳以上」の老年人口(人口増加全体の71.8%)だというのです。

これを見ると、実は、もう世界の多くの地域で、日本同様の「少子高齢化」は、始まっているというのです。

私たちは「少子高齢化」は、政策で対処できて、いずれ乗り越えられる課題だと思っています。

しかし、人口学者の目からは、「少子高齢化」は人類文明の歴史的必然で、既に決まってることだというのです。

4.「縮減」に向かう世界人口

本書は、詳細な数字や表で、説明していますが、このブログではそうもできませんから、ニュアンスだけをお伝えできれば良いかと思います。

今後2100年までに増加する大部分は、アフリカです。それもサハラ以南のサブサハラ・アフリカに集中しています。

アフリカ以外のアジア、ヨーロッパ、カリブ諸国ラテンアメリカ、北米、オセアニアの全てで、15~64歳の生産年齢人口は減少します。

とりわけ、アジアでは人口増加は続きますが、その増加の大部分は65歳以上の老年人口となります。

世界全体としては、以下のように順次移行していくとされています。

「年少人口が増加」→
「生産年齢人口が増加」→
「老年人口が増加」→
「年少人口が減少」→
「生産年齢人口減少」→
「老年人口減少」

日本は、今5番目の「生産年齢減少」の段階だというのです。

この本書の主張を、世界の「人口すごろく」で言えば、日本がトップを進んでいて、最終ランナーが、アフリカということになります。

このように、本書は、世界人口の増加は、まだ続くが、地域別にみれば全体として縮減に向かっているとしているのです。

これを読むと、小手先の「少子化対策」などは、ほとんど意味を持たないようにも思われてしまいます。

減少スピードを、やや緩やかにする効果しかないということなのでしょう。

何とも、見たくない真実だと、コロちゃんは思いました。

5.「長寿化」も世界中で

本書で、平均寿命の推移を見てみると、世界全体では1950年の46.5歳から2022年の71.7歳まで延伸しており、長寿化は世界中の現象だとされています。

今後は2050年までに、EU諸国、中国などが、2100年には、世界の大半の国々が日本と同じような「超高齢社会」になると予想されているそうです。

人口減少は、初期は緩やかに進むから、なかなか気が付きませんが、気が付いた時には、もう急減しているということになりますね。

この「長寿化」も、世界的傾向だというのです。

6.「人口減少」も世界中で

長期的な人口再生産の目安となる「純再生産率」というのがあるそうです。

一人の女性から、何人の女児が再生産されるかの数値だそうです。

その動きをみると、世界全体では、1950年の1.64(つまり1世代で人口が1.6倍に増加する)から、2022年現在の1.06に低下していると言います。

そして、その後2100年には、0.88となると推計されているそうです。

つまり、世界人口は2050年を過ぎたあたりから、再生産水準を下回り、長期の「人口減少」に入るとしているのです。

あと30年後の世界ですね。そこから世界全体で「人口減少」が始まるとしています。

本書は、この結論として、「人口動向からみれば、日本を含め、すべての高所得国にとって移民国家への移行は避けられない」としています。

果たして、日本で「移民容認」という政治決断ができるかどうか、コロちゃんは考えてしまいました。

本書は、高所得国は自然減が進む(自然増加は期待できない)ことから、高所得国の人口の趨勢は国際人口移動で決まると主張しています。
(少子高齢・人口減少は止めることはできないが、遅らせることはできる)

7.先発地域と持続可能性

本書の基本的認識は、日本は、人口転換の先発地域であるというものです。

そうなると、すでに「少子・多死・人口減少」に入っているわけですから、人口の持続可能性を維持する上で、少子高齢・人口減少を緩和しつつ、いかにして社会システムの崩壊を防ぐかが課題となるとしているのです。

日本の中央年齢は、48.7歳と人口の半数以上が、すでに50歳近い。

日本の年少人口の低さと老年人口割合の高さは、世界の最先端です。

しかし本書は、人口学的には、この少子高齢化は際限なく進むものではなく、長期的には安定人口に収束するとしています。

ただ、このような年齢構造の下では、15歳未満の若年者に対する扶養負荷を示す「年少従属人口指数」と、65歳以上の高齢者に対する扶養負荷を示す「老年従属人口指数」の合計が高くなってくるというのです。

2022年現在の71.1から、2100年には、99.7と、ほぼ100に近づきます。

これは、生産年齢人口一人に対し、高齢者と子どもを合わせて一人分の生活を支えることを意味するというのです。

これでは、よく語られる「肩車社会」どころではないですね。現役の方が、お年寄りと子どもの二人を扶養するのですから。

もっとも、個人のライフコースとして、年少期間は親に依存し、65歳以降の高齢期は成人した子どもに依存すると考えれば、それほど不都合とは言えないとしていますが。

これらのことから、持続的な「経済成長」は必要であると、本書は主張しています。

本書は、そのためには、今後爆発的に人口が増加するサブサハラ・アフリカへの、積極的な経済援助・投資と、移民の受け入れを提案していますが、これはたやすくはないでしょうね。

8.「人口減少」時の問題点

今の日本をみても、まだ「人口減少」が始まったばかりなのに、いろいろな問題が出てきています。

「社会保障のあり方」や「財源」、「働き方改革」から「高齢化」まで、数多くの問題が噴出しています。

しかし、本書は、人口減少下では、社会経済システムを縮んでいく人口規模に合わせ、常に縮減再編し続けなければならないと言っています。

「縮減する」社会資本や社会的生産の下では、就業機会も減り、分け前にあずかれる人が減ると言っているのです。

また、人口減少に合わせ、組織の無駄を省きスリム化することが、常に求められるために、ギスギスした陰鬱な生き残りゲームのような競争が生じる傾向が強いとも言っています。

なんとも暗い未来予測ですが、打つ手はあるとも言ってはいます。

9.社会システムの組みなおし

「縮減する社会」は、様々な再配分問題に直面すると言います。

なぜなら、急速に進む少子化・人口減少は、様々な社会グループ間の人口構成を変化させ、利害対立と格差拡大をもたらすからだとしています。

家族を持つ人と持たない人(後者の増加)、子どもと高齢者(後者が増加)等々。

それらのこれまでの再配分を、新しい人口状況に合わせ、格差を縮減する方向に社会システムを適応させていくしかないというのです。

しかし、日本でそのような既得権益をなくすような「改革」ができるのでしょうか。

コロちゃんは、ちょっと無理じゃないかなと思いました。

本書は、未来の警告という意味では、すごい大きな信号音を鳴り響かせていますが、その「人口減」の処方箋については、ちょっと理想主義的過ぎるように、思えました。

社会システムの変更は、今までの既得権益者の懐から利益を抜くようなものですから、それこそ革命かクーデターでも起きない限り、ちょっと難しいのではないかと、コロちゃんは思いました。

しかし、日本と世界の未来の人口の推移について、遠慮のない人口学者の見解がわかったことは、価値あるものと思われました。

たとえ、それが、どんなに厳しい未来でもです。

本書は興味深いですよ。ぜひ読むことをおすすめします。

コロちゃんは、社会・経済・読書が好きなおじいさんです。

このブログはコロちゃんの完全な私見です。内容に間違いがあったらゴメンなさい。コロちゃんは豆腐メンタルですので、読んでお気に障りましたらご容赦お願いします(^_^.)

おしまい。

Jill WellingtonによるPixabayからの画像
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