最近は、電気代が上がったり、灯油の値段が上がったり、物価上昇が進行する世の中になったようにも思われます。
いよいよ「失われた30年」と言われた「停滞の日本」から、変化が始まるのかもしれません。
しかしその変化の向きが、暮らしが良くなる方向に進むのか、それとも悪くなる方向に進むのか、今日はちょっと整理しながら考えてみました。
1.物価上昇の現実
「消 費 者 物 価 指 数」
全 国(年平均)2022年(令和4年)平均
総合指数は2020年を100として102.3
前年比は2.5%の上昇2022年(令和4年)12月分
https://www.stat.go.jp/data/cpi/sokuhou/tsuki/pdf/zenkoku.pdf
総合指数は2020年を100として104.1
前年同月比は4.0%の上昇
出典:総務省 報道資料 2020年基準 消費者物価指数より(2月10日)
昨年2022年の1年間を通しての「消費者物価指数」の上昇率は、2.5%で、昨年12月の一か月の「消費者物価上昇率」は4.0%だったとの発表がありました。
しかし、その内容を詳細に分析すると、輸入物価上昇を背景とするコストプッシュ型であり、国内需給が引き締まったり、賃金上昇による物価上昇とはなっていないと判断されているようです。
要するに、国内物価の上昇は、輸入している原油や小麦などの価格上昇によるもので、消費者の需要が増大したことによる物価上昇ではないと言っているんですね。
ですから、この物価上昇に継続性はなく、今年の後半からは物価上昇率は下がってくるものと判断しているものと思われます。
素人であるコロちゃんの見方も同じです。
先月1月の電気料金が爆上げしたことには驚きましたが、今後持続的に物価が上がるとは思えません。すでに原油価格は、昨年のピークよりだいぶ下がってきています。
今年の夏以降には、物価上昇も落ち着いていくのではないかと思っています。
庶民としては、物価が上がらない方がよいに決まっていますが、施政者は違います。施政者が考えていることは、以下のようなことかと思われます。
2.物価と賃上げの好循環とは
「賃金が上昇して消費が拡大する」
「消費が拡大すれば物価が上昇する」
「物価が上昇すれば、販売するモノの値段が上がることにより企業の売り上げが増加する」
「企業の売り上げが増加すれば、企業収益が増加する」
「企業収益が増加すれば、それがまた賃金上昇につながる」
そういう経路の考え方があります。なんとなく「風が吹けば桶屋が儲かる」のような、危うい論理のようにも思われますね。
経路の途中で、この連続が一カ所でも途切れれば成立しないんです。
かつての、高度成長の日本はその「好循環」を体現して、みんなが豊かになってきたわけですね。
その成功体験が上記の「物価と賃上げの好循環」です。
アベノミクスは、この「好循環」を引き起こすために「大胆な金融緩和」を行ったのです。
しかし、円安で企業業績が改善しても、賃金の上昇は起こらずに、その後の消費拡大へは進行しませんでした。
円安と企業業績改善の第一段階は、成功したのですが、企業は収益増を内部留保に回してしまったのですね。賃上げには向かいませんでした。
途中でストップしてしまったというわけですね。
そこで、今度はこの循環の出発点を「賃上げ→消費拡大→物価上昇→企業売上増加→企業収益増加」に求めたのでしょう。
3.しかし、昨年の実質賃金は
厚生労働省が2月7日発表した2022年の毎月勤労統計調査で、昨年の賃金の動向を発表しています。
物価の影響を考慮した実質賃金は前年比0.9%減でした。2年ぶりのマイナスです。
賃金の実質水準を算出する指標となる物価が3.0%上昇と、賃金の伸びを上回り、賃金上昇が物価高に追いつかない状況となっています。
実質賃金がマイナスですと、消費は落ち込みます。
それぞれの家庭でも大変ですが、日本全体で消費が落ち込むと、企業業績も落ち込んでしまいます。
そこで、施政者は次のような手を打っています。
4.経団連と政労使会議
大企業の総本山である経団連は、「2023年の春季労使交渉の経営側指針」を発表しました。
そこで「企業の社会的な責務として賃金引き上げのモメンタム(勢い)の維持・強化に向けた積極的な対応」を呼びかけています。
経団連会長も「ベースアップを含めた積極的な賃上げの検討」を呼びかけており、企業代表としては異例の対応ですね。
そして首相官邸による「政労使会議」の開催です。これは来月3月に開催されるもようですが、8年ぶりの開催です。
「政労使会議」は、2015年に当時の安倍政権時に開催されましたが、「賃上げ」と「経済の好循環」は達成できずにそのまま休止されてしまいました。
前回と同じような内容でしたら、結果は前回と同じとなると思いますが、今回は新しい内容が提起されるのでしょうか。
ただ、資本主義社会においては、「賃上げ」はあくまでも個別企業の判断です。
政府や経団連に命令する法的権限はありませんから、日本では「会議」を開いて「要請」し、雰囲気と流れを作る以外に、方法がないという側面もあると思います。
5.賃上げは実現するのか
昨年2022年の、春闘での賃上げ率を調べてみると、大手企業で2.28%、中小企業で1.97%と発表されています。
今年2023年は連合は5%以上を目指しているようですが、民間エコノミスト33人の平均予測は2.85%だったそうです。
しかし、たとえ春闘である程度の賃上げがあったとしても、大企業と中小企業との格差は生じるでしょう。
全国の中小2300社を対象に商工中金が調査したところ、2023年の賃上げ率は1.98%になる見込みと報じられています。
中小企業においては、2022年の賃上げ率は1.97%でしたから、ほぼ変わらず横ばいですね。
日本の大企業に所属するのは1229万人(31%)でしかなく、中小企業には2784万人(69%)が所属しています。大企業の倍以上の方が、中小企業に就労されているのです。
大企業である程度の賃上げがなされても、中小企業で同じような金額の賃上げがなされることはありません。
大企業と中小企業の賃金格差が一層広がる結果となりそうです。
あくまでも今年の賃上げで目指すものは、「経済の好循環」が起きるようなマクロな数字です。
全体の31%の大企業の賃上げだけでは、とうてい目標には届かないと思います。
6.足を引っ張る非正規雇用の賃上げ
下記の表をみてもわかるように、日本の雇用構造には、2000万人を超える非正規労働者の方がいらっしゃいます。
この方たちには、春闘はありません。大幅な賃上げも実現しないでしょう。
「経済の好循環」のためには、消費が大きく伸びるような全体の所得の向上が必要です。
下記の表でも「非正規労働者数」は1984年(604万人)から2021年には(2075万人)へと、3倍以上に増えているのです。
先日、2月14日に総務省統計局が最新の「労働力調査 (詳細集計)」を発表しました。
その内容は「非正規の職員・従業員は2101万人と、26万人の増加。3年ぶりの増加」とありました。
まだまだ、非正規雇用はさらに増え続けているのです。
この非正規労働者数の増大は、あきらかに実質賃金の低下の一因となっていると思います。
正社員で少々の賃上げがなされても、非正規労働者はほとんど賃上げはありませんから、所得全体のマクロでの数値は、あまり上がりません。
物価が少し上がるだけで実質賃金は低下してしまう構造ですね。
非正規労働者の増大は少子化の一因ともなっていますから、ぜひ対策をしていただきたいと思います。
https://www.mhlw.go.jp/content/001041163.pdf
出典:厚生労働省 「非正規雇用」の現状と課題より(2月10日利用)」
7.価格転嫁で一歩踏み込んでいるけど
中小企業での賃上げが進まない理由には、中小企業においては、原材料高などのコスト増が販売価格に転嫁できていない現状があるそうです。
交渉力の弱い中小企業は、大企業から厳しいコスト要求を突き付けられやすく、断りにくい。中小企業は、賃上げの原資がないというわけですね。
そこで、経産省は2月7日に「下請け振興法」に基づき、価格転嫁・交渉に後ろ向きな企業名を初発表しています。
日本郵便や不二越が「最低評価」として、下から二番目として、NTTや佐川急便ほか14社がやり玉に挙げられています。
政府としては、今までにない本気度を見せたということだと思います。しかし、どのくらいの実効があるのかはわかりません。
政府と日銀がここ30年間求め続けた「賃上げを伴いながら、物価が持続的・安定的に上昇していく」という道の実現は、まだまだ難しいと思いますが、いかがでしょうか。
8.生産性は上がるのかな
下記の表をみてもわかるように、日本の製造業の労働生産性は2000年代から現在までほとんど横ばいです。大企業と中小企業の差もほとんど変化はありません。
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2020/chusho/b1_2_1.html
出典:中小企業庁 中小企業白書 労働生産性の推移より(2月11日利用)
また、先進国であるG7諸国での労働生産性を比べると最下位です。ただ、これは日本の構造的な問題によるものと思われますので、いくつかの対策を講じるぐらいでは変わらないのではないかと思いますね。
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/html/nd112110.html
出典:総務省 令和3年版情報通信白書 生産性向上の必要性より(2月11日利用)
このように日本の生産性が大きく低迷している原因として、深尾京司日本貿易振興機構アジア経済研究所所長は「女性や高齢者など低賃金の非正規労働者が増えたからだ」と分析しています。
コロちゃんも、賛同しますね。生産性の向上を目指すのならば、「非正規と正規の壁をなくす改革」が必要と思います。
9.おいて行かれる弱者たち
このように見ていくと、「経済の好循環」の回路には「物価上昇」が必ず入っています。
もう一度「経済の好循環」の回路を見てみましょう。
「賃上げ→消費拡大→物価上昇→企業売上増加→企業収益増加」です。
最後の「企業収益増加」の次は、最初に戻りループする予定なんです。
しかし、世の中には、最初の「賃上げ」がなされない人も大勢いらっしゃいます。その方たちには「物価上昇」の痛みのみが押し寄せてきます。
そもそも、この「経済の好循環」は、ここ30年間みんなが目指しながらも、一向にたどり着けない「未完のループ」なんです。
いろいろ試行して、最後に残ったのは「この方法では駄目だと分かった」という総括だけはやめてほしいと思います。
10.プランBを考えてほしい
コロちゃんは、市井のおじいちゃんですから、専門的なことはわかりません。
しかし、「失われた30年」というくらいですから、ここ30年間いろんな政策や対策をためしていたことはわかります。
以上のように、今回の「経済の好循環」も、失敗する可能性が高いとコロちゃんは思っています。
だから、せめてプランBを準備していてほしい。
これが失敗したら、ほかの方法があるよと提示して欲しいと思いました。
今日は、最近新聞を読んで気になっていたことを、ポテポテと語ってみました。うるさくてすみません。
この方面の話題に興味のない方は、別の日の「コロちゃんの清貧ライフ」にまたお立ち寄りください。
コロちゃんは、社会・経済・読書が好きなおじいさんです。
このブログはコロちゃんの完全な私見です。内容に間違いがあったらゴメンなさい。コロちゃんは豆腐メンタルですので、読んでお気に障りましたらご容赦お願いします(^_^.)
おしまい。
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