コロちゃんにとって後藤新平というと、「大風呂敷」と呼ばれたことと、現在の東京の「昭和通り」を造ったことが彼の業績であるぐらいしか思いつきませんでした。
本書を読んで、彼の業績がわかりました。いやいや、素晴らしい「政治家」ではないですか。現代にもぜひ彼のような「政治家」はいないものかと待望する思いをもちました。
1.著者は「都市工学」の専門家
本書は「都市工学」の専門家による後藤新平の研究書です。著者は歴史家ではありません。
しかし、都市工学の視点から纏めた本書の考察は、明治から大正における日本の都市工学の技術水準の高さと、それを実現した政治の力の大きさを明らかにしています。
本書は、私たちに多くのことを教えてくれると思いました。
2.出身は、東北地方の小さな町
後藤新平は、「東北地方の片田舎の小さな城下町」岩手県水沢市出身です。
後藤新平が所属した仙台藩は、奥羽列藩同盟の中心として厳しい処分を受けました。
そこから、後藤少年が中央の「政治家」として出てくる過程を読むと、それ自体が針の穴を通すような、か細い道をくぐり抜けたようなものだと思いました。
明治維新により、全国で版籍奉還と秩禄処分が行われます。後藤少年の仙台藩では深刻なリストラが行われます。家禄が全廃され、後藤新平も平民となりました。
そこに明治政府から派遣された県庁権知事(県のナンバー1、権は仮を意味する)によって、3人の給仕(連絡係・雑用係)のうちの1人として、後藤少年が選抜されたのです。
選抜は旧家老の推薦によって決定されたようです。後藤少年は、才気溢れた少年だったのでしょう。
3.人との出会い
確かに後藤新平は素晴らしい才能を持っていたのでしょうけど、それを引き立ててくれる人たちとの出会いという強運も持っていたのですね。
この立身出世の過程を読むと、そのまま大河ドラマになりそうな面白さも持っています。
生涯の恩人として3人の人物がいたと言われています。
北海道長官などを歴任した「安場安和」は、後藤少年を部下の阿川光裕に書生として預けて養育しました。
陸軍の軍医総監を務めていた「石黒忠悳」は、地方の医師だった後藤新平を中央官庁の内務省に異例の抜擢を後押しました。
内務省衛生局長を務めていた「長与専斎」は、石黒の薦めにより後藤の才覚に同意して内務省に採用しました。
この3人は、明治政府に仕えた地方の行政官ですが、中枢ポストについたことはありません。
歴史に詳しい方でも、この3人は知らない方が多いでしょう。彼らが地方の貧しい1少年を中央政府に引き立てていくのです。
これは、もう一つの「坂の上の雲」ですね。明治日本には数多く見られた風景なのかも知れません。
4.政治家「小沢一郎」との対比
水沢出身の「政治家」というと、現在に生きる我々は「小沢一郎」という強烈な個性を持つ「政治家」を思いおこします。
小沢一郎さんの業績というと「小選挙区制度を生み出した政治改革」でしょうか。
「小選挙区制度」は、現在から見る限り、政治制度として有効に機能している様には思えませんので、評価はあまり高くはないですね。
現在では小沢一郎さんは「現代の後藤新平」には、なれなかったなと思ってしまいした。コロちゃんは、出身が東北地方なので、少し残念です。
5.後藤新平の業績
本書では、後藤新平の業績として「台湾総督府の民政長官」「満鉄の都市経営」「関東大震災と帝都復興計画」の三つをあげています。
台湾総督府民政長官
「台湾総督府の民政長官」では、まるで白紙にぐいぐいと絵を書くように一から「都市計画」や「地域開発」「インフラ整備」「農業育成」を推し進めています。
当時の現地住民しかいない僻地であった台湾と、現在の発展した台湾を俯瞰してみると、彼の推し進めた政策の成果は明らかであると思えます。
インフラ整備は現代では常識ですが、帝国主義全盛時代の植民地にそれだけの投資を行うことは、他に類例を見ないのではないかと思います。
道路、上下水道、総督府庁舎、総督官邸、官舎建築、並木道、公園、病院。現在でも残る遺産ですね。
また、産業政策では製糖業を発展させるなどの成果を上げています。
現在の台湾にある親日感情は、これの遺産かも知れないと考えてしまいました。
満洲鉄道と都市経営
「満鉄の都市経営」については、日本の敗戦による大陸撤退によって、現在では全く注目する者はいません。
しかし、本書で読む後藤新平のダイナミックな「都市計画」と、それを実現した「政治力」にはまさに瞠目する思いを持ちました。
当時の日本のインフラを、はるかに超える内容と規模のモデル都市を、大連・長春などに造ろうとしました。
立派な都市計画を植民初期に実施し、公共施設を整備すると言う方式は、後藤新平の信念であったようです。現在でもその雄大な構想の跡は、上記の中国の都市の至る所に見受けられるようです。
関東大震災と帝都復興計画
そして「関東大震災と帝都復興計画」です。
旧来の状態に戻す「復旧」ではなく、将来を見据えてダイナミックな「復興」をする。
その詳細な内容と、後藤新平が行った「政治」を読むと、先見の明をもつ「政治家」がいかに少ないかとともに、「抵抗勢力」がいつの時代も数多くいることがよくわかりました。
1923年の関東大震災で、当時の東京市は都心部と下町のほぼ全域が焦土と化しました。死者が58000人という大災害です。
後藤新平は、副総理格での内相として帝都復興を主導します。
東京を江戸以降の旧状のままで再建する「復旧」ではなく、長年の懸念であった東京都市計画を実行して、抜本的な都市改造を実現する「復興」を行ったのです。
そこに、いつの時代でも変わらぬ政治的攻撃が襲い掛かります。
計画は一部縮小され、現在の東京には帝都復興計画が達成された「正の遺産」がある反面、「負の遺産」も多々見られます。
本来は道路が必要であった場所に道路が無く、本来は公園にしたかった場所に公園がない。
区画整理ができなかった場所は密集市街地になっているという状況です。
6.歴史的には悲運の政治家
思うに後藤新平は、日本の敗戦というその後の歴史の変転によって、その業績に誰も注目しなくなった悲運の政治家なのでしょう。
あまりにも評価されていないと思えます。本書で読む後藤新平は、凄いの一言です。
7.現代の政治家と比較してしまう
本書を読むと「東日本大震災」の復興について耳にしたことが頭に浮かびました。
大きな被害を出した東北沿岸の漁港の復興においての、岩手県と宮城県の対応の違いです。
岩手県は、漁港ごとに漁協を核とした漁業・養殖業の構築を目指したとされています。
それに対し、宮城県は、水産業集積地域や漁業拠点の集約を進め、さらに水産特区による新しい経営形態の導入などを提案するなど、まさに対極をなす内容だと報道されました。
国内の漁業の生産量は、長期的に減少しつつあります。その中で、どの様な未来を展望するのかの違いなのでしょう。
それぞれの漁港のコミュニティの維持も重要との議論もあったと聞きます。
その後の様子は報道されませんでしたが、どうなったのでしょうか。
「復旧」と「復興」の違いの重要性を現在の「政治家」は理解してるのだろうかとの疑問が浮かびました。
また、将来を見据える政治家の存在です。現在の政治家は短期的な視野でしか動いていない様に見えます。
本書の様な歴史上の政治家についての本を読むと、どうしても現在の政治家と比べてしまうのです。
現在、世襲議員が国会議員の30%を超えると言われていますが、彼らが何を目指しているのかが、見えないことが多い様に思えます。
8.都市計画の重要性
現在「首都圏直下型地震が30年以内に70%の確率で起きる」「死者は11000人」と予想されています。
また「南海トラフ地震が40年以内に90%程度の確率で起きる」「死者は全国で231000人」とも予想されています。
本書によると後藤新平は、関東大震災発生以前から帝都復興計画の策定を進めていたそうですが、現在はどうなっているのでしょうか。
本書は、「都市計画」「インフラ整備」「災害復興」のもつ重要性と、その実現のための「政治家」の重要性を、誰の目にもわかるように歴史を通して教えてくれる良書であると思います。
9.歴史の中から未来を創る知恵を得る
漫然と日々のニュースを見ていて、政治経済に不満を感じても、良きプランが無ければ、単なる不平不満に終わってしまいます。
未来を創るより良き知恵は、過去の歴史の中にこそ沢山埋もれていると、コロちゃんは思うのです。
本書には、上記の様に都市計画の重要性や政治家が出来る事のエッセンスが沢山詰まっていると思いました。本書を高く評価したいです。本書を、ぜひ読むことをおすすめします。興味深いですよ。
コロちゃんは、社会・経済・読書が好きなおじいさんです。
このブログはコロちゃんの完全な私見です。内容に間違いがあったらゴメンなさい。コロちゃんは豆腐メンタルですので、読んでお気に触りましたらご容赦お願いします(^_^.)
おしまい。
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