おはようございます。コロちゃんの住んでいる関東地方は、今日「梅雨明け」したそうです。
今日からは、太陽ギラギラの真夏の季節が始まりますね。コロちゃんは、これからの毎日を、クーラーと扇風機のお籠り生活で過ごそうと思っています。
皆さんも、暑さには無理をせずに、お身体にお気をつけてお過ごしください。
今日は「半導体有事」という本を読んだ感想をポチポチします。
1.「半導体有事 湯之上隆 文春文庫 2023」
コロちゃんは、最近特に、興味をもって「米中摩擦」をウオッチしています。
一昨年には、まだそんなに騒がしくなかった米中関係が、昨年2022年頃からだんだんとエスカレートしてきたように思います。
特にアメリカの、昨年秋からの「半導体規制」は、日本やオランダも巻き込んで一気にきな臭いにおいが漂ってくるようになりました。
現在では、「米中摩擦」は世界的規模で広がっており、新聞の国際面でもたびたび取り上げられています。
その対中国のデカップリング政策の中心に「半導体規制」があることは、新聞でも繰り返し報じられていますので、ある程度わかるのですが、その詳細な内容にはなかなか触れることができません。
そもそも規制の対象が「半導体」という、一般にはよくわからない製品です。
普段の身の回りの電化製品にも、必ず使われているものですが、驚くほど多種多様なラインナップがあり、その違いも一般人にはよくわかりません。
ましてや「原料」も「製造装置」も「製品」も、専門的な知識がないと、とうてい理解できないものではないでしょうか。
また、半導体を知ろうとして、いくつかの本を読もうとしても、やたら専門的な学術書のような本が多く、素人には手が出ない本ばかりです。
コロちゃんは、自分のような素人にも、理解しやすく、なおかつ米中当局の狙いや意図まで総括的にわかる本はないかと、常々思っていたのです。
その時に本書「半導体有事」を手に取りました。
本書の著者は、京都大学大学院を卒業された後に、日立製作所に入社した半導体技術者です。
その後は、エルピーダメモリや、半導体先端テクノロジーズへと出向され、いわば「日本半導体」が凋落していった歴史を身をもって体験してきた技術者です。
現在は、「半導体産業」と「電機産業」のコンサルタント&ジャーナリストを務められているそうです。
現職が現職なだけあって、半導体を巡る米中の現状と、半導体とはどのようなものかがの全体像が、コロちゃんのような素人にもわかるように、本書でわかり易く書き表してくれています。
なにしろ、「コンサルタント&ジャーナリスト」の方ですから、わかり易く解説するのはお手の物なのでしょう。
そして、前職(エルピーダメモリ2012年経営破綻)が前職だけに、日本の半導体政策を徹底的に批判しています。ですから、本書は学術書にはなりえません。
著者は、日本の産業政策を徹底して批判しているのです。
しかし、その歯に衣を着せない言説は、半導体を巡る国際的な争いの理由と意味を、本書でわかり易く解き明かしてくれています。
それでは、本書の感想をポチポチしていきたいと思います。
2.米国による対中規制と「台湾有事」
本書は、2021年に起こった世界的な半導体不足から始まっています。
その半導体不足の中心には、半導体の受託生産(ファンドリー)での世界シェア60%の台湾のTSMCがあったと記しています。
半導体には「ロジック半導体」「メモリ半導体」「アナログ半導体」があるそうです。その「ロジック半導体」が不足となって世界的な「半導体不足」起きたとしています。
その中心には、台湾のTSMCがあるというのです。
現在の米中の争は、「先端半導体製造能力」を巡る、米中の争いとなっています。
アメリカは、中国に対して2022年10月7日に中国半導体を完全に封じ込める措置を発表しています。いわゆる「10.7規制」です。
その規制内容の複雑さは、本書の著者のような専門家でも読解に2ヶ月を要したと記していますが、これに約10ページを費やして内容を紹介しています。
コロちゃんのような素人には、到底全容は理解しきれなかったのですが、読んでいくと、この「10.7規制」が、中国半導体産業を壊滅させかねない措置だということがわかってくるのです。
本書はそれを「中国半導体産業の息の根が止まる」と表現しています。さらに、その次に出てくる小見出しは、「台湾有事の懸念」です。
コロちゃんは、この章を読んで、かつて石油を止められた日本が乾坤一擲の覚悟の下に、日米開戦を決意した歴史を思い起こしました。
本書は、この章の最後に「あまりにも厳しい米国の10.7規制が、中国の軍事侵攻を誘発するということは、起こりえることだろう」と、不気味な予想をしています。
3.半導体とは何か
本書では、半導体の作り方をやさしく教えてくれています。そして、その解説の中から台湾のTSMCの巨大さと凄さを教えてくれているのです。
半導体を作る工程は、「設計」「前工程」「後工程」の三段階に分かれているそうです。
「設計」(ファブレス)の代表的企業がアップルです。作りたい製品に合わせて半導体を設計します。
次が「前工程」(ファウンドリー)で、その部門の売り上げ1位なのが台湾TSMCです。ここでは、ファブレスが設計したデータを基に、シリコンウェハ上に半導体を作りこみます。
次が「後工程」(アセンブリメーカーまたはOSAT)で、シリコンウエハを研磨・切り出し・封入・検査します。
本書では、上記の内容について詳細に書いていますが、この「前工程」には必ず「成膜工程」があります。
その成膜工程に米国は、前述の2022年「10.7規制」で制裁の網をかけています。その成膜装置で米国は世界シェアを独占しているそうです。
したがって、中国が米国の成膜装置を輸入できなくなれば、半導体の製造は全くできなくなると本書は指摘しています。
また、本書は半導体製造の露光装置について、オランダのASMLが極端紫外線を使った露光装置(EUV)を開発したと書いています。
この露光装置を入手した台湾のTSMCは、1年間に100万回の練習を行ない、2019年に初めて7㎚+のロジック半導体の量産に成功したと書いているのです。
その時の、100万回の練習に使ったウェハは、全てスクラップ処分となったと書いています。
本書は、このエピソードを始めとして、半導体製造についての多くの知識を読みやすく開陳してくれています。
4.「垂直統合」と「水平分業」
本書には、この後も台湾のTSMCを率いるモリス・チャンの生い立ちから、現在世界一の半導体ファウンドリーメーカーに至るまでの伝記が語られます。
その伝記が、単に「立志英雄伝」に終わらないところが、本書をより興味深くしています。
日本の半導体メーカーは、1990年には世界シェアの49%と、ほぼ半分を占めていたのですが、その後現在に至るまで凋落し続けています。
一方台湾のTSMCは、1987年に創業して、いまや世界一のファウンドリーメーカーです。著者は、日本企業と台湾TSMCの差はどこにあったのかを、厳しい内容で指摘しているのです。
日本は、半導体製造の全工程を1企業内で「垂直統合型」で構築していました。
各社がそれぞれに作っているのですから、「日立の半導体」と「東芝の半導体」では互換性がありません。
それに対し、TSMCは、「設計」「前工程」「後工程」を徹底的に水平分業し、それぞれの世界標準を推し進めたと書いています。
その詳細は、読んでもコロちゃんにはよく理解できないところが多いのですが、TSMCが企業戦略で新しい領域を切り開いてきたことはわかりました。
TSMCが、まず「設計」については数社と協力して「世界標準のセルライブラリー」を作りました。
それにより上流の回路設計を提供するベンダー、EDAツールベンダー、ファブレスが作られました。
そしてファウンドリーのTSMCです。
その後のアセンブリーメーカーというように、水平分業のシステムを構築したのがTSMCなのです。
その結果、「半導体製造」が、一つのエコシステムとなるようにしたというのです。
そして、いつでもどこでも誰でも、同じ設計ができるようになることによって、世界中のファブレスが設計した半導体をTSMCが量産することとなったというのです。
その詳細な内容は、わからなくともTSMCが非常に大きな成功を成し遂げたことはわかります。
そして一時は半導体の世界生産の半分近くあった日本が、そのTSMCによって叩き落されたこともわかりました。
5.興味は尽きない
その後も、「車用半導体不足」の実態や、「世界半導体製造能力構築競争」についてなど、興味深い内容が続きます。
それらの内容も、著者は半導体技術者出身とはいえ、現職はコンサルタント&ジャーナリストです。
本書は、半導体を知らない方にも、読みやすくわかり易い文章となっています。
そして「中国」「韓国」「米国」「日本」の半導体製造を巡る動きと誤算などを、まるで小説のように解釈しながら、筆を進めているのです。
また、本書の特徴は、徹底した経産省批判です。「日本の半導体産業は、また失敗を繰り返すのか?」と、けちょんけちょんに叩いています。
著者をネットでポチポチすると、多くの媒体で同じ主張が見られますから、著者の信念なのでしょう。
本書では、日本が招請したTSMCの熊本工場(総事業費1兆1000億円のうち約40%にあたる4760億円を日本政府が補助)について、「閑古鳥が鳴くかもしれないTSMC熊本工場」と評しています。
また興味を引いたのは、2022年11月10日にニュースで流れた半導体新会社「ラピダス」の設立についてです。
この新会社は、トヨタ自動車、デンソー、ソニーグループ、NTT、NEC、ソフトバンク、キオクシア、三菱UFJ銀行の8社が共同で設立されました。
著者は、この「日の丸半導体会社」のニュースを聞いてのけぞり、暴挙を通りこして笑うしかないと酷評しています。
この新会社は、5年後の2027年に2nmのロジック半導体を量産すると報じられていますが、本書は「最先端の半導体を9世代もジャンプして生産できると思っているのか?」と指摘しています。
その後でも「日本の半導体産業はまた失敗を繰り返すのか?」と厳しい警告を突き付けています。
6.批判するばかりではない
しかし、批判ばかりではないのです。ちゃんと専門的意見として、日本の強みとして「製造装置」と「材料」の分野を上げています。
強い分野があるのだから、そこを伸ばせというぐらいならば、誰でもが思いつくことですが、著者はより深い考察を書いています。
本書は「製造装置」と「材料」の分野で強い理由に、日本人と欧米人の発想や行動形式が違うことが、「装置」や「材料」のシェアに大きく関係しているというのです。
もちろん、単に結論を提示するのではなく、理解しやすいように詳細な半導体製造の過程が書かれています。
そして、結論として、「欧米人は理論が先にある。そして開発初期に議論を尽くして方針を一本化する」というのです。
逆の言い方として「手先が不器用で、実験がヘタ」とも書いています。
それに対して、「日本人技術は、直感的に手を動かして実験を行う。決められた枠組みの中で最適化することを得意としている」というのです。
続いて「規格やルールを作るのは苦手」と結論付けます。
その結果、日本のシェアが高いものは「液体」「流体」「粉体」の「ふあふあ」しているものを扱う場合が多いものとなっているというのです。
「ふあふあ」なものは、最適化するためのパラメータが多く、そのプロセスは、暗黙知やノウハウが多く、匠の技や職人芸のようなものとなるために、日本人に向いていたというのです。
なるほど、このような見解は、コロちゃんでも理解できる納得の分析です。コロちゃんは、本書を読んで、「半導体産業」を一部なりとも理解できたように思いました。
現在の世界では、「米中対立」によって、この「半導体」が単なる商品ではなく「戦略産業」と「戦略物資」になってしまっています。
そう考えると「半導体」やその「製造」への理解と知識は、私たちにも必要不可欠なものとなっていると思います。
本書は興味深いですよ。ぜひ読むことをおすすめします。
コロちゃんは、社会・経済・読書が好きなおじいさんです。
このブログはコロちゃんの完全な私見です。内容に間違いがあったらゴメンなさい。コロちゃんは豆腐メンタルですので、読んでお気に障りましたらご容赦お願いします(^_^.)
おしまい。
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