コロちゃんは、「読書」が好きです。活字の本も好きですが、コミックも読みます。漫画の黎明期だった少年時代からずーっと読んできました。
好きなコミックは数多くありますが、その一つに「プレイボール」や「キャプテン」の少年漫画がありました。
その漫画家さんの息子さんが「ちばあきおを憶えていますか」という本を出版されていましたので、今日はこれを取り上げます。本書は「活字の本」です。コミックではありません。
1.「ちばあきお」とは、少年ジャンプで連載した漫画家
「ちばあきお」さんは、1970年代から80年代にかけて活躍された漫画家です。コロちゃんは当時、20代から30代でした。
主な作品は以下の通りです。
「キャプテン」(月刊少年ジャンプ 1972年)
「プレイボール」(週刊少年ジャンプ 1973年)
「ふしぎトーボ君」(月刊少年ジャンプ 1982年)
「チャンプ」(月刊少年ジャンプ 1984年)
1989年にお亡くなりになっています。享年41歳でした。「チャンプ」連載中のことでした。
「ちばあきお」さんの作品は、どれも少年たちを主人公としたスポーツまんがです。その内容には、現在でいうところのチープな天才は出てきません。
みんな、普通の少年なんです。いろんな挫折を繰り返しながら、周りとの関係の中で少しずつ前進していく日常を丁寧に描いているのです。
友情と努力と勝利。
言うのは簡単ですけど、実行は難しい。その苦悩を丁寧に淡々と描いている。
それが、何とも言えずに面白い。
独特の「ちばあきおの世界」です。
これらの作品は、どれも楽しく、面白く、味があるんです。コロちゃんは大好きでした。アイキャッチのフォトの通り、全巻を持っています。
この大好きな作家の息子さんが、本を出したのですから、手に取るのは当然ですよね。
2.「ちばあきおを憶えていますか」(千葉一郎 集英社 2022年)
本書は、副題として「昭和と漫画と千葉家の物語」と書いてあります。
「ちばあきお」さんの生い立ちと成長の日々を、本書は「千葉家の歴史」として紹介しています。
「ちばあきお」さんは、「明日のジョー」で有名な「ちばてつや」さんの弟です。
千葉一家は、太平洋戦争の終戦時に満州に居住していて、敗戦の時に大変な思いをして日本に帰ってきています。
この満州からの帰還の撤退行については、作詞家の「なかにし礼」さんや多くの方が本で書かれていて、また残留日本人孤児の話でも、その悲惨な体験が明らかにされていますね。
この本の著者である息子さんの千葉一郎さんは、1975年生まれですから、終戦時にはまだ生まれていませんが、一族と関係者に入念に取材したのでしょう。
日本が敗戦となった1945年には、千葉家の子どもたちは、長男の「てつや」が6歳、次男の「研作」が5歳、三男の「昭雄」が2歳、四男の「樹之」が1歳とあります。
よく無事に帰ってこれたものです。ご苦労がしのばれます。
帰国したのちの、漫画家へと進む道が描かれていますが、決して楽な道ではありませんでした。
その苦悩の姿が克明に描かれています。
「ちばあきお」さんは、腎臓の病いで高校を休学していたそうです。お身体が弱かったのでしょう。
作品の「キャプテン」のなかに「青葉学院」という野球エリートの学校が出てきます。
このシリーズの主人公の谷口君は、その青葉学院での野球落ちこぼれで、その後に別の中学の野球部で活躍する物語なんです。
この物語は、主人公が挫折するところから始まるんです。
この挫折から始まるという点を「ちばあきお」さんの息子さんである千葉一郎さんは、以下のように書いています。
「『ちばあきお』さんが病弱であったこと」
「漫画界の巨人であり、兄である『ちばてつや』との関係がプレッシャーとなっていたこと」
挫折から始まる主人公の谷口君の姿は、「千葉昭雄」さん自身を投影したものだというのです。
作品を読んでいた読者としてコロちゃんは、主人公の谷口君の、偉そうではなく、不器用そうな、努力家のキャラクターは愛すべきものとして楽しんでいました。
「ちばあきお」さんの作品の特徴として、息子さんである一郎さんは、次のように評しています。
「谷口キャプテンのあとに続いた丸井、イガラシ、近藤という歴代キャプテンは誰も、それぞれの人間性の襞まで深く描かれている」
まさにその通りで、それがこれらの作品集が現在に至るまで光り輝いている理由だとコロちゃんは思います。
実にリアルに、少年たちの人間関係が描かれているんです。
本書の中には、「ちばあきお」さんとの漫画家仲間であり飲み友達であった武論尊氏の言葉も載せられています。
「『キャプテン』『プレイボール』を読めばわかるように、あきおさんが書くのは『日常』なんだ」
「その中で、それぞれのキャラクターを執拗に丁寧に描きながら、誰でもちょっと頑張れば手が届きそうな輝かしさや、何かを達成した時の喜びを表現していく、だから多くの読者が共感する」
同感しますね。野球をあまり知らないコロちゃんでもこの漫画は面白かった。
ただ、この人気漫画家としての生活は、良い作品をぎりぎりまで追求するプレッシャーと、締め切りのプレッシャーがすさまじく襲い掛かります。
そのためでしょう、「ちばあきお」さんはアルコール依存症となります。家族の苦悩と奮闘が書かれていますが、読んでなんとも忍びない思いを持ちました。
そして、自死という結末を迎えてしまうのですが、作品を読んでもこの本を読んでも、「ちばあきお」さんのやさしさと人間性を感じて、なんともさみしい思いを持ちました。
まだまだ、多くの作品を世に出せたはずの、才能あふれる漫画家だったと思いました。
3.「ちばあきお」の苦悩
漫画家の世界はどのようなものなのかを、コロちゃんはよく知りませんが、「ちばあきお」さんは、その苦悩を作品に昇華して残しています。
七転八倒苦悩の末にうみだされたデビュー作「サブとチビ」と、それを作成する姿を漫画作品にした自伝「頑張らなくちゃ」という作品があります。
これを読むと、その時の「ちばあきお」さんの苦悩がマンガでよくわかのるのです
コロちゃんは、この作品を収録した「ちばあきおのすべて」をいう本を読んで、当時の彼の苦悩と迷い、そして喜びと感動を分かちあった気分になりました。
4.作品の中の少年たちには、自主性がある
これらの「ちばあきお」さんの作品世界を読み、現在の少年たちと比べてみると、大きく違うことがわかります。
時代の違いもありますが、現在と比較すると少年たちが自分たちで物事を決めて、自分たちで準備して、自分たちで取り組んで、自分たちで結果を受け入れているんです。
そこに大人たちはほとんど出てきません。
現在は違いますよね。スポーツ少年団でも、クラブ活動でも、大人が指導し、大人が考え、大人が命令し、全体を掌握していて、子どもたちはそれに従うのみということが多いのではないでしょうか。
「ちばあきお」さんの作品とその時代では、子どもたちが自分が主体的に活動していたんです。
大人たちは子どもたちの世話などをする時間がなかったという時代でもありました。
この時代は、子どもたちに「自主性」と「自由」と「主体性」がありました。
それは「責任」をも伴うことでしたが、「喜びも」また「苦しみ」も大きかったと思われます。
その分、この作品集での子どもたちの笑顔は実に魅力的です。
5.多様性の少年文化
そして、この作品集に出てくる子どもたちのキャラクターの豊富さです。
まじめで不器用な谷口君。
融通が利かないが実力はすごいイガラシ君。
ユーモラスだが練習が嫌いな近藤君。
それぞれ完ぺきな少年はいません。しかも長所と欠点を丁寧に表現している。短所すら評価しているんです。
これは人間評価に「多様性」を認めている人間観です。
現在の日本では、「経済合理性」が評価基準になってしまったせいか、人の評価も一面的になっているように感じられます。
しかし、もともと過去にあった少年たちの世界はそうではなかったのです。
不器用でもまじめなヤツはいましたし、いじめっ子でも面倒見がいいヤツもいました。
勉強ができても嫌なヤツもいましたし、子どもの世界は「多様な少年」が集まっていたんです。
それをまとめて許容した世界を魅力的に描いたのが「ちばあきおの世界」だと思います。
ここまで、ブログをかいていましたら、また「ちばあきお全巻」を読み直したくなってきました。皆さんも、フリマなどで入手できれば、ぜひお読みください。面白いですよ。
その「ちばあきお」さんの生活を紹介した、息子さんの書いた本書も興味深いですよ。
繰り返しますが本書はコミックではありません。活字の本です。ぜひ読むことをおすすめしますよ。
コロちゃんは、社会・経済・読書が好きなおじいさんです。
このブログはコロちゃんの完全な私見です。内容に間違いがあったらゴメンなさい。コロちゃんは豆腐メンタルですので、読んでお気に障りましたらご容赦お願いします(^_^.)
おしまい。
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